あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
その時、コツンと脚に当たる感覚がした。
咄嗟に足の付く方向を見れば漣が微笑を携えていた。少し眉を寄せて睨めば、更に目を細め、話に入ってきた。
「撮影のイメージは先に伺ってましたので準備は進めています。ただ今回、ドラマでついてしまった印象を払拭したいとも伺いましたので、衣装の候補を一度確認していただけますか」
「払拭といっても、あくまで彼女のキャラクターの範囲内でですけどね」
「分かってますよ」
愛想良くもどこか距離の感じる笑顔を見せながら漣は資料を差し出してくる。各々手渡しだったのだが、私へ渡してくる際、死角で指を撫でられ思わず小さく反応してしまった。
「っ…」
当の本人は何事も無いような涼しい顔をしていて余計に腹が立つ。なんでそんな何でもないような顔ができるの。私はこんなに振り回され悩んでいるのに。
資料を握りしめ、くしゃりと音を立てて皺が寄る。
馬鹿みたいな話だ。本当に。
傷つきたくないと、関わりたくないと思うのに漣の声が鼓膜を揺らす度に彼が私に囁く言葉を思い出す。
嘘が真実かも分からない、"好きだ"なんて不確かな言葉。そう言いながら平気で他の女を家に連れ込んでは抱く。何ひとつだって信用できない。
彼の特別になんて、なれやしないのに。
——なのに、私は…
じわりと涙が浮かんだ。
咄嗟に目を伏せ、溢れさすまいと力を込めた。
それから私は話しかけられた時にひとことふたこと返したくらいで、ほぼ和泉と初対面のお2人が話をして、1時間ほどで打ち合わせは終了となった。