あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「この後だが、俺は他のタレントの迎えに出る。お前は事務所に戻って今日の件をデスクに報告したら帰っていい」
「分かりました」
「来週から予定が埋まりだすから休めるうちに休めよ。大学は夏休みだろうが遊ぶための休暇じゃねえからな」
「だから分かってますって」
若干うんざりしながらそう答えれば、和泉さんはフンと鼻を鳴らして出て行った。
彼に対する罪悪感はある。けれど、心と体がちぐはぐになった今の私には正常な判断というものが分からなくなっていた。
言われた通りに事務の人に資料を渡して共有してもらう。それから幾つかオーディションの資料だったりを受け取り、お先に失礼しますと事務所を後にした。
移動の道中、母には外泊の旨の連絡を入れた。こんな仕事をしているせいか実際のところ母は多少予定が変更になってもあまり詳しくは聞こうとはせず見守ってくれており、そんな事にすら胸が痛む。
そうは言っても心配はかけるだろうから大学を出たら家も出るべきなんだろうな。そう思うと同時に、かつて漣から言われた言葉を思い出す。
一緒に暮らすだなんて、本気なわけないのに、まともに受け取った自分が馬鹿みたいだ。
嘲笑を吐き捨てれば、漣のマンションが見えてきた。
エントランスを抜ければ今日は止められる事なくすんなりと進めた。
頭を下げるコンシェルジュはあの時と同じ女性だ。
どんな気持ちで見られてるんだろう。哀れみか、蔑みか。どちらにせよ、私が馬鹿である事に変わりはない。