あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「はい。いってらっしゃい」
けれど、背中に当たる手は私を中へ押し入れるだけで、何故か私だけが洗面所に残された。
「お湯は張ってあるから、ゆっくりしておいで」
「え…」
「あとそこに置いてる入浴剤、好きなの使っていいから」
そう言ってパタンと呆気なく扉が閉じられ、ポカンと立ち尽くす。
——あれ…?
混乱のままバスルームに入れば確かにお湯が張られていて、38度で保温にされている。入浴剤もラベンダーだったりベルガモットだったり、安心する香りばかりだ。
「…?」
わけがわからぬまま服を脱ぎ、簡単に入浴を済ませて出るといつもならバスローブの入っている場所にはそれが見当たらず、代わりにシルクのパジャマが置かれていた。
ますます分からない。一瞬袖を通すのを躊躇ったが元の服を着るのもイヤなのでそれを身につければサイズもピッタリ。明らかに女性もの…というか、私に合わせたものだ。
おずおずとリビングへ戻れば広い室内に姿が見当たらず、少し見回すと漣はキッチンにいた。目が合うと、にこりと笑って手招きしてきた。
「…なに?」
漣がキッチンに立っているのなんて今まで見た事ない。
怪訝な顔で近づけばマグカップが差し出され、そこからは甘い香りがした。