あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
謝罪もなく弁解でもなくただ一言。
だからなんだ。そう言おうと目を向けたのに、漣の表情を見て言葉が出なくなってしまった。
「祖父さんが亡くなってからは…薬もダメになって、ほとんど眠れない」
漣はカップを手に取り、しかし口をつけることなく水面を見つめる。
私は未だ、言葉を発することができない。責める言葉も怒りの感情も、すべて沈下してしまった。
一方で漣は感情を感じさせない声で、言葉を続けた。
「父親が死んで、母も死んで…その時からまともに一晩と眠れた事はないけど、それでもまだ今よりはマシだった。…これは、そんな俺に祖父さんが少しでも安眠できるようにって用意してくれたもの」
漣の表情に影が落ちた。
——亡くなった…?
薄々思ってはいた。自分を天涯孤独だと言った彼からお祖父さんの話は聞いた事はあるけど、それならご両親はどうなんだろうって。いないという事はそういう事だったのかと、今度は違う涙が溢れた。
「それでも人肌を感じる時だけは眠れた。だから寄ってきた子と夜を過ごした。けどそれ以上の感情なんて抱いた事なんて無かった」
一口だけ飲むと、漣は再びカップを置く。
「……」
彼の境遇は分かった。行動の原点も。けれど胸の痛みは余計増した。
何に胸が痛んだのかは分からない。ただただ、切なかった。
「…ただ、さ」
そう言って漣は私からカップを奪ってきた。視線を上げると、いつのまにか漣は私を見つめていた。