あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
そのまま自分のホテルまで移動して部屋に戻ると、外は暗く雨が降っていた。本当に間一髪だったみたいだ。
時間も時間だしこの天気じゃ外には遊びに行けない。それならばせっかく良いホテルに泊まったのだからとクラブラウンジまで移動し、軽食とアルコールを体に入れることにした。
だいぶお酒の限界量もわかるようになり、今は1杯位なら悪酔いしないと知った。自分自身の慰労も込めて打ち上げがてらジントニックを注文してそれを少しずつ口に運ぶ。
今頃みんなはあちらで盛り上がってるのかな、和泉さんは私の伝言ちゃんと聞いたかな、潰れてないと良いけどなんて事をぼんやり考える。
「……」
そしてふと、先程の女性スタッフを思い出した。
今思い返せば私の言動はまるで悪女のようだった。そんなつもりは無かったけれど、あれではまるで牽制しているようにも聞こえる言葉だ。
——もしかして、嫉妬…?
私が彼女のような一般人だったならと、何度思ったか知れない。
だけどそんな事今更言ったって、どうにもならない。
確かに私は漣の手を離して仕事の道を選んだ。その事実はもうどうにもならないし、消すことはできない。
離れている間に漣が私を嫌悪の対象に変えたところで、悲しむ権利も、無い。
「Excuse me」
声がかけられ見あげれば、身なりの良さそうな男が居た。髪の色といい肌の色といい同じ日本人でない事は分かる。
男は英語で何やら話しかけてくるが、ここまで流暢に話されると私にはほぼ聞き取れない。それでも時折聞こえてくる単語からおそらく口説かれているんだろうなという事だけは察しがつくけれど、英語での断り文句に何と言えばいいのかも知らない。
まあでも、こういった場合は相手にせず無視を決め込めば相手が飽きて去ってくれる。ナンパの断り方なんてどこの国でも同じだろうとスルーを決め込んでいたのだが、突然手が掬われた。