あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜


「『今宵はようお越しくださりました。天神の明里と申します。よろしゅうお願いします』」


台本通りの京訛りの台詞を述べ、手をついて挨拶をする。

顔を上げて並ぶ顔を見れば、さすが物語の中核を担う役だけあって錚々たる面々が並んでいる。その中でも特に気になるのは2人。

こちらに朗らかな笑みを向けている、私の恋人役の山南敬助役の男性。何度か現場で一緒になった事があるが役の通りの博識な方で、同業者の中でも評判がいい。

ただもう1人、今回の主役とも呼べる土方歳三役の男。芸名を佐原健吾(さはらけんご)と言うのだが、この男がどうにも面倒くさくて苦手だ。

今でこそ役を忠実に再現する為こちらに興味を示さず黙々と食事を続ける演技をしているが、時折投げかけてくる視線は野生の肉食獣そのもの。

いかんせん顔合わせから始まり、読み合わせの時から何かと絡んでくる厄介な男なのだ。


「『これは明里天神。お噂通りの美しさで』」

「『まあ、これはおおきに』」


その後は二、三台詞の述べ、稽古どおりの舞を舞い、カメラは回りつつも音声は隊士役の会話を拾う。

時折視線をこちらを見守るスタッフ達に向けるが、その都度漣と目が合う。いつかのように女性スタッフと話す事なく一心にこちらを見ている。それだけで体に熱が集まってきてしまうのだから仕方ない。

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