あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「はい、シーン76オッケーです!」
三味線の音が終わったところでカットがかかり、一同の肩が下がる。私も動きっぱなしだったのでそれなりに疲れていたのだが、次のシーンに向けて移動せねばならず非常に動きにくい着物を引き摺りながら座敷の上を歩けば、手を差し出される。よもやと思い顔を挙げれば、佐原だった。
「…ありがとうございます」
苦手な男だがこの業界では芸歴と人気がものを言う。そのどちらも私より上の彼へは失礼な態度は取れない。そう思い不本意だがにこりと作り笑顔を浮かべてその手を取れば、腕を引かれ耳元で囁かれる。
「芸妓姿も変わらず綺麗だね、白雪ちゃん」
人が違うというだけで同じ事をされてもこれだけ違うのかと思えるくらい、背筋に悪寒が走った。それこそ可愛いだの綺麗だの、星の数ほど言われてきたから今更言われたところで何も思わない。ただ1人の言葉を除いては。
「いつも褒めていただきありがとうございます。…あの私、次の準備がありますので急ぎますね」
当たり障りのない言葉を返して座敷を降りたところで手を離そうとしたのだが、思いの外強く握られ離せない。
「…あの、佐原さん、手を」
「食事の件、考えてくれた?」
他の面々がセット変えで忙しくしているのをいい事に歩きながら問うてくる。加えて共演者キラーと名高い彼が女を口説く光景など、見慣れたものなのか誰も止めにも入ろうとしない。
私はひくりと口元をひくつかせ、首を振った。