あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「…お、男が…、やっぱり居たんだね」
男の私の腕を握る手に力が込められる。しかし私の意識は漣にしか向いていなかった。
「れ、漣…っ!」
伸ばしかけた腕に刃先が向けられる。そしてそれはゆっくりと、私の顔付近まで移動した。そこでようやく目にした顔に、少し前の記憶が蘇る。
その男は、先程イベントに来ていた——鈴木だった。
「どうして…私の家に、」
「…キミは覚えてないと思うけど、昨日の昼にキミと会ってるんだよ」
会話が通じない。まして鈴木の言葉にはまったく身に覚えが無い。昨日、私が会ったのは萌葉だけだ。
「裏通りのケーキ屋って言えば思い出してくれる?」
ケーキ屋という単語に確かに萌葉にお土産として買うために寄った記憶はあるが、それでも思い出せない。
震える体は首を縦にも横にも振る事は出来ず、それをどう捉えたのか鈴木は静かな声で言う。
「俺が落とした小銭をキミが拾ってくれた。…その時に見えたんだよ…その指輪が…!」
「…っ!」
そこまで言われてもどうしても思い出せない。涙が浮かび、恐怖に目を閉じれば憎悪に満ちた冷たい声がかけられた。