恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】
「え?帰るって、ひとり暮らしのマンションにですか?」

環奈が帰ったあと食器を下げに来た長谷部は、めぐの言葉を聞き返す。

「はい。明日病院の診察の日なので、そこからは自宅に帰ります。食事はネットスーパーでお惣菜を届けてもらえばいいし、足首ももう痛みはないので大丈夫ですから」
「でも何かあれば困りますし、せめてもう少しだけでも……」
「お気持ちはありがたいですが、ずっとここにいるのも気が滅入ってしまうので」

本音は宿泊代がかさんでしまうのが理由だが、そう言うと長谷部は気を遣ってしまうかもしれない。

「長谷部さん、本当に色々とありがとうございました。自宅に帰って一人で気持ちを落ち着かせたくて」
「……そうですか、そういうことなら分かりました。では明日、病院まで車でお送りしますね。そのあとご自宅にも」
「いいえ、タクシーを使います」

きっぱりそう言うと長谷部はそれ以上押しつけるようなことは言わなかった。

「分かりました。もし何かありましたら、夜中でもいつでもご連絡ください。ここに私のプライベートの携帯番号が書いてありますので」

差し出された名刺を、めぐはありがたく受け取る。

翌朝。
ホテルのロータリーに止まっているタクシーの前で、改めて長谷部に頭を下げた。

「長谷部さん、本当にお世話になりました」
「いえ、お役に立てたなら良かったです。どうぞお大事に」
「はい、ありがとうございます」

笑顔でお礼を言い、めぐはタクシーに乗り込んだ。
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