本の王子と囚われのページ

　高校生活は思った以上に慌ただしかった。クラス替えや新しい人間関係に戸惑いながらも、日々は確実に過ぎていく。そんなある日――――
「ねぇ、瑠衣ってさ、楓に付きまとってるの？」
　唐突な一言が、私の背後から投げかけられた。振り返ると、ひまわりが冷たく目を細めて私を見つめていた。
　立花ひまわり――――その名の通り、ひまわりのような明るさを持ち合わせた女の子。いつもクラスの中心にいるような存在で、その笑顔は誰にでも眩しい。ただ、その光の裏にある影を知る者は少ない。私にとって彼女は、特に接点のない同級生に過ぎなかった。強いて言うなら、楓の隣の席に座っていることくらい。それでも、この瞬間、彼女と私の距離は一気に縮まった――――悪い意味で。
　私はひまわりの質問に否定する。できるだけ穏やかに穏便に。
「そうなんだ？　でも、いつも楓くんの傍にいるよね」
　ひまわりの声には棘が含まれていた。言葉は柔らかいが、その瞳は明らかに私を値踏みしている。
　彼女の意図はその言葉で大方把握できる。遠回しに言いつつと棘が隠れている言葉、何より彼女の目がそう語っている――――ウザいと。
「いつも楓くんが話しかけてて、うらやましいなぁ」
　ひまわりは一呼吸置いてから、さらに付け加えるように言った。
「私にも紹介してほしいな」
　彼女の言葉には、一見すると好意的に見える響きがあった。しかし、そこに潜む意図を感じ取れないほど私は鈍くはない。
　どうするべきか、答えを出す暇も与えられないまま、彼女の視線がじわじわと私を追い詰めてくる。――――逃げ場がない。ここで拒否すれば、今後の学校生活がどうなるか想像に難くない。
「やった！　ありがとう！」
　ひまわりはパッと笑顔を見せた。その表情は太陽のように輝いていたが、私にはそれが刺すような光に思えた。