同期の姫は、あなどれない
 「唇噛んでる、噛むなって」

 無意識に噛み締めてきた下唇を、姫が咎めるように舌の先で舐めた。

 「だって、何かっ…」

 「何か?」

 「なんか、しゃべって、」

 「ふ……どういうこと?」

 姫はかすかに笑ったけれど、私は必死だった。

 「だって、私ばっかりっ……」

 私ばかりが、乱れている。
 ここは姫の部屋で、姫の前で、自分の嬌声と濡らしている音ばかりが響いているという羞恥。そしてその羞恥が快楽の刺激になっているなんてーー

 自分はこんなに貪欲だったのだろうか。
 知られたら死んでしまいそうなくらい恥ずかしい。

 「……なら、こうする?」

 意図を汲み取った姫が屈んでキスをした。
 キスの角度が変わると同時に中を抉る指の角度も変わって、新たに襲う快感に目を見開く。
 声を上げそうになるのに封じられて、息ができない。

 苦しさで姫の腕を掴むと唇が離されて、自然と声を上げてしまった。

 「やっぱりその方がいい……聞きたいもっと」

 聞きたいと言われたら拒めない。
 耳元から吹き込まれた言葉は媚薬みたいで、私はそれから甘ったるい声をあげ続けた。

 たぶん私の気持ちいいところは分かっているのに、そこはずっと掠めるだけなのがもどかしい。
 焦らされるようにゆっくりと育てられた快感が、出口を失ってじわじわと体の内に溜まっていくのを感じる。これが弾けたときにはどうなってしまうんだろう。

 頭も体もどろどろに溶かされて、おかしくなりそう。

 「そろそろ限界なんだけど、いい?」

 私を見下ろす姫の目には、滾る何かを抑えるような熱をはらんでいる。
 何だか見てはいけないものを見ているようで目眩がした。

 目が合うと、私にもそれが移ったみたいに体の奥が熱くなって、私は熱に浮かされるように頷いた。

  ちょっと待って、と言って姫はヘッドボードに手を伸ばすと避妊具を取り出した。

 あそこにあったんだと目で追いながら、この前ここに頭を打ったときにうっかりばら撒いたりしなくてよかった、とぼんやりした頭で思う。じゃないと、きっととんでもない空気になっていたに違いないから。

 「…何か変なこと考えてるだろ」

 準備を終えて再び覆い被さってきた姫が、太腿を撫でながら鎖骨に吸いつく。

 「っ、そんなことないよ、」
 「じゃあこっち見て、俺のことだけ考えて」

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