同期の姫は、あなどれない
 「わ、私の部屋?」

 もっと有名な観光スポットや欲しいものが買えるお店のようなところを想像していたから、今度は私が面食らう番になった。

 「だめ?」

 表情は変わらないけれど、声に少し不安げな色がするものだから私はを振る。

 「ううん、だめじゃないんだけど…そんなに広くないよ?ソファーもないし」

 「そんなの全然いい、一人暮らしの部屋って大体そういうものだし」

 「うん、姫がいいなら来る?」

 嬉しそうに、ちょっとほっとしたように笑うのが可愛いと思ってしまった。

 「でも何でかベランダは広めなんだよね。あと、マンションの前の街路樹が桜並木だから春は綺麗だよ。ベランダに出てちょっとお花見ができるの」

 自分の部屋は3階で道路に面しているから素晴らしい眺望ではないけれど、その桜並木が部屋を借りた決め手だと言ってもいいくらい気に入っている。

 「いいなそれ。この辺りも川沿いに桜並木あるけど人が多すぎるから」

 「じゃあ、来年の春はうちでお花見しよう?あ、今年はベランダの窓締め忘れてて、風が吹いた途端花びらがぶわーって部屋に入ってきちゃってもう後の掃除が大変だっ…た!?」

 突然腕を引っ張られる。
 それと同時に抱き寄せられていて、目の前には姫の服といい匂いに包まれた。え、どうしてこんなことになっているの?

 「えっ?ちょ、何でっ……?」

 訳が分からなくて私は目をまばたいた。

 「いや……そんな当たり前に、先の約束までするんだなと思って」

 そう指摘されて、私ははっとして言葉を失う。
 自分だけものすごくはしゃいでいたみたいで恥ずかしくなって、しゅんとしおらしくしていると、頭を抱き寄せていた手が背中を撫で始めた。

 「……なぁ、やっぱり出かけるの、午後からにしない?」

 「………え、?」

 着たばっかりのシャツの裾から、手が入った。
 遠慮がなくなった触れ方に身の危険を感じて抵抗するものの、姫はお構いなしに髪を梳き耳を甘噛みされる。

 さっき可愛いな、なんて侮った自分に全力で忠告しにいきたいーーー

 そう思ったときにはすでに遅くて、覗き込む視線に搦めとられたら力なく睨み返すことしかできない。悔しくて、私も姫の背中に手を回したついでに小さくつねってみた。

 「…罰ゲームだと思って受け取るよ。この程度じゃまだおつりがくるくらい」

 くすくすと嬉しそうに言われて、何とも気が抜けてしまう。
 どうやら解放してもらえそうにないと悟った私は諦めて、それでも一矢報いようと交換条件を出すことにした。

 「じゃあ、今日のお昼は姫にご馳走してもらう。おつりなんて許さないんだから…っ」

 姫が頭上でひとこと、了解と言ってから唇が重なる。

 私は照れ隠しでぎゅっと姫の体にしがみついて、まだもうしばらく太陽から隠れるように、再びシーツの海に飛び込んだ。


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