同期の姫は、あなどれない
 「……仕事してるときも思ってたけど、人を褒めるのうまいよな」

 「え?そうかな、初めて言われた気がする」

 「何ていうか、人を乗せるのがうまいっていうか。結婚したら、ゆきのの掌の上で転がされそうだなって」

 ―――い、いま、なんて?結婚って言った……?

 まったく想定していなかった単語が、あまりにも自然な会話の中に入り込んでいたものだから、私は持っていたお皿を取り落としそうになった。

 「…っと、危なっ」

 「ご、ごめんっ!び、びっくりして…」

 よかった、割れてない。すんでのところで姫に救われたお皿を、私は呆然と見つめる。
 自分が為出《しで》かしてしまったことのせいなのか、自分に向けられた破壊力のある言葉のせいなのか、とにかく心臓が煩いほどバクバクいっていて、全身が熱い。

 「?あぁ、結婚のこと?今すぐってわけじゃないけどいずれは、さ。するなら、ゆきの以外に考えられないし…」

 ついさっきまで平然としていた姫の声が、だんだんと語尾にいくに従って声が小さくなって、最後は消え入るようだった。
 それが恥ずかしさからではなく、緊張からなのだと気づいたとき、どうしようもなく愛おしくて、少しだけ泣きそうになる。

 「…まぁ、そういうことだから。考えておいて」

 姫は変わらず、淡々とスパゲッティをお皿に盛っている。
 その背中に思いっきり抱きつきたい気持ちを抑えて、私は姫の服の裾を引く。

 「ねえ姫、こっち向いて?」

 嬉しさと、喜びと、緊張と。
 未来へ踏み出す前のほんの少しの不安と、それ以上の幸せと。


 いま私の内にある全てを込めるように、精いっぱい背伸びをして、姫の頬に唇を寄せた。

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