同期の姫は、あなどれない
 そうして、賢吾と音信不通になって1ヶ月近くが経過した。

 S製薬の新規プロジェクトが始まり仕事の忙しさが増していく中でも、賢吾とのことがいつも心のどこかに棘のように引っ掛かっている。

 あれから、返信がないと分かっているのに懲りずに何度かメッセージを送ったり電話を掛けてみたものの、結果は同じだった。自然消滅を狙っているのか、もう本当に連絡を取るつもりがないのだろうか。

 少し調べると、ブロックや着信拒否をされているのか確認する方法があることを知ったけれど、確認したところで虚しいだけな気がして、結局することはなかった。

 ◇◇◇◇

 5月中旬の金曜日の夜。
 S製薬プロジェクトのキックオフ飲み会で、私は新橋の居酒屋にいた。

 最近は仕事の疲れも相まって食欲もなく、飲み会に参加したい気分ではないというのが正直なところ。
 ただ、取引先も交えた飲み会で幹事代理も任されていた以上ドタキャンするわけにもいかず、これは仕事と割り切ることにした。

 乾杯直後はまだ雰囲気が堅かったものの、お酒が進むにつれて仕事の話からプライベートの話題、学生時代の話など、あちこちで話の花が咲き始めている。

 「すみません、次の料理が来るのでお皿寄せてもいいですか?あと、空いてるグラスはこっちでもらっちゃいますね」

 私は話の腰を折らないようにタイミングを見計らいながら、飲み物の追加オーダーを店員さんに伝えたり、空のグラスを集めて下げてもらったりしていた。

 忙しくフロアを動いているホールスタッフの動きを見ていると、大学時代に居酒屋でバイトをしていた自分の姿と重なった。
そのためか、客こちら側がどう振る舞えばスムーズになるかが手に取るように分かってしまい、つい動きたくなってしまう。

 (バイト時代に宴会を捌いていた自分がお客さん側になるなんてね)

 そんな感慨に耽りながら運ばれてきた料理を人数分に取り分ける。
すると、隣りに座るS製薬の社員さんから、ピッチャーに入ったビールをコップに注がれた。

 「早瀬さんって案外お酒いけるクチ?」

 「いえ、そういうわけでもないんですけど、あっ自分でやりますよ!」

 「いいって、いいって」

 グラス自体はそこまで大きくはないものの、空になっては注がれを繰り返していると、いつもより飲むペースが速まってしまった。お酒のせいなのか、最近の寝不足のせいなのか、何だか少し疲れてきたような気がする。

 (ちょっとだけなら、抜けても平気だよね)

 私は賑やかなテーブルの様子をあとにして、そっと席を立った。

 
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