同期の姫は、あなどれない
 お手洗いを済ませてから、少し風に当たりたくてお店の外に出た。

 ちょうど近くに煙草休憩中の男性がいたため、煙が流れてこない場所を見つけて移動し、私は糸が切れたように脱力して壁に寄り掛かる。

 「あー、いい風、、」

 日中は上着が必要ないくらい暖かくても、夜になると空気が少しひんやりする。それが少し火照った頬にちょうどいい。

 「あぁ、ここにいた」

 しばらく涼んでいると、背中越しに聞き慣れた声がした。
 振り返らなくても分かる。姫だ。

 「……おつかれ」

 私は目を合わせずに、小さく返事だけをした。
 ここに姫が来るのは予想外だった。こういう展開になりたくなくて、今日の飲み会では席も一番遠くを選んでいたのに。

 そんな私の葛藤を知る由もない姫は、隣りから少し顔を覗き込むようにしてくる。

 「具合悪いのか?」

 「ううん、ちょっと酔ったから風に当たりたかっただけ」

 私の頭の中では、代官山で偶然見てしまった彼女と買い物デートをしていた姫の様子がちらついた。

 居合わせたのはただの偶然だけれど、人のプライベートを勝手に覗き見したみたいで、何となく気まずい。

 私は極力目を合わせないように、目の前の通りを歩く通行人の流れを見るともなく眺めていた。

 「ビールばっか飲みすぎなんだよ、得意じゃないくせに」

 「別に、私が何を飲もうと関係ないじゃない」

 「ならもう少し何か食べろ。今日ほぼ飲んでるだけだろ。そんなんだとすぐ酔い回るぞ」

 席は一番遠かったはずなのにちゃんと見られていた。
 姫は図星だろ、という顔で淡々と指摘する。私のかわいくない発言も態度の悪さもお構いなしだ。

 「いま、絶賛傷心中なんだ。だからあんまり食欲ないの」

 
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