同期の姫は、あなどれない
 姫は私に彼氏がいることは知っている。

 だから、傷心が何を指すのかはだいたい想像できるだろう。
 私は同情されたくなくて「もう1ヵ月くらい前の話だけど」と、あくまで深刻にならないようにへらっと笑う。

 「…それが、その死んだような顔の原因?」

 「死んだようなって、、さすがに失礼すぎない?」

 この1ヶ月は不摂生だったり不規則な生活だったりをしていたこともあって、コンディションが良くない自覚はあった。けれど、そんなに酷い顔をしているんだろうか。

 「とりあえず、これ飲んどけ」

 そう言ってペットボトルのミネラルウォーターが渡される。

 ああそうか。私が酔って具合が悪くなったと思って、これを渡しに来てくれていたのか。
 私が差し出されたペットボトルを受け取れずにいた。

 「姫って、付き合ったら意外と彼女に尽くすタイプ?」

 なんでそんなことを口走ったのか分からない。
 理由があるとすれば、たぶんあの時見た仲睦まじそうな2人が頭をよぎったのと、姫の優しさに触れたせいだ。

 「さぁ、、試してみる?」

 一瞬、言われた意味が理解できなかった。
 驚いて顔を上げて、思ったよりも姫の顔が近かったことにたじろいだ。

 どれくらい沈黙が流れただろう。
 ほんの数秒のような気もするし、すごく長い時間だったようにも思う。

 沈黙を破ったのは私でも姫でもなく、飲み会のラストオーダーを告げに来た営業の獅堂さんだった。

 「ごめんなさい、すぐ行きます」

 私はその場を逃げ出すようにして、姫を置き去りにしたままお店の中へと戻った。


 
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