同期の姫は、あなどれない
 「さっきは話が途中になったけど、ゴールデンウィークに一緒にいたのは夏川透子なつかわとうこさんっていって、兄貴の彼女で婚約者。あの日は兄貴と買い物の予定だったのが、自分は急に仕事が入ったから代わりに荷物持ちして来いって連絡がきて、ああいうことになっただけ。ったく、人を何だと思ってるんだか」

 「そうだったんだ……お兄さんと、仲良いんだね。何歳違いなの?」

 「別に仲が良いってわけじゃ…歳は俺の四つ上だから、今年30のはず」

 姫はうんざりしたように言うけれど、そんなふうに気軽に連絡をし合える兄弟がいるというのは、一人っ子の自分からするととても羨ましく思える。

 「早瀬って一人っ子なのか。下がいるのかと思ってた」

 「そう?どうして?」

 「後輩の面倒見いいし、仕事では結構しっかりしてるから」

 そんなふうに見てくれてたんだ。少しうれしい。

 と同時に、自分が盛大に勘違いをしてものすごい醜態を晒したことが、今さらながら恥ずかしくなってくる。
 私はグラスをテーブルに置いて居住まいを正すと、頭を下げた。

 「あの、、今日はいろいろごめんなさい。お兄さんの婚約者を彼女だって勘違いして、それで姫にも酷いこと言った気がする…」

 お酒が入っていたとはいえ、泣いて喚いて、まるで子どもの癇癪みたいだったなと反省する。

 「別にそこまで謝ることじゃないだろ。まぁ、駅前で泣かれたときは正直焦ったけど」

 「ご、ごめん。だってあの時は本当に彼女がいるんだと思ってたから、、なのに家来る?とか試してみる?とか、冗談でもそういうこと言うなんてって思っちゃって」

 「冗談じゃないけど」

 「え?」

 それってどういう―――

 ヴーンヴーン、とスマホのバイブレーションの音がした。

 「あっごめん、私のかも、、」

 バッグを開けると、社用のスマホに通知が来ていた。
 送信者は、宇多川修平。

 宇多川さんからのショートメールだった。

 
 
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