同期の姫は、あなどれない
明かされた事実
 『宇多川です、今日はお疲れさまでした。
 僕はさっき家に着いたところです。
 早瀬さんはあの後は大丈夫でしたか?
 機会がありましたら今度ぜひ飲みに行きましょう』

 私は届いたショートメッセージを読んだ。
 いきなり駅であんな形で別れて、当の私ですら動転したのだから、傍から見ていた宇多川さんには訳が分からなかっただろう。きっと驚いただろうな。
 丁寧で押しつけがましくなく、それでいてこちらを気遣う文面を前に、私は申し訳なさでどう返信したものかと悩む。

 「誰?」

 私はスマホの画面から顔を上げる。
 語気は強くないけれどその下にある苛立ちが隠しきれていない、そんな声だった。

 「あの、宇多川さんから、って、あっ!」

 横から伸びてきた手に、スマホをひょいっと取り上げられる。私は慌てて取り返そうとするけれど簡単にかわされた。腕の長さが違いすぎる、卑怯だ。
 姫は画面を見ると今度はだんだんと目が細く険しくなった。

 「はぁ、、いちいち小賢しいやつ」

 もう不機嫌さを隠す気はないのか、姫は吐き捨てるように言う。
 これまでも冗談っぽく先輩をこき下ろすような言い方をすることはあったけれど、ここまで嫌悪感を露わにするところを目の当たりにするのは初めてだった。

 「その言い方は棘がありすぎない?」

 それとスマホを勝手に見るのはマナー違反だと咎めると、はいはい、と言ってスマホを返された。

 「事実なんだから仕方ない。けど、本当に気づいてなかったんだな」

 「気づいていないって、何のこと」

 「パスケース」

 (……え?)

 唐突に、想定していなかった単語が飛び出して私は面食らってしまう。なんで急にパスケース?話の方向が見えなくて戸惑う私をよそに、姫は話を続ける。

 「1ヶ月くらい前だっけ、失くしたって言ってただろ」

 「うん、覚えてるよ。打ち合わせ先で落としたのを、宇多川さんが届けてくれたやつでしょう?」

 でもそれが今、何の関係があるのだろう。

 「早瀬は落としてない。あれは嘘だ」

 どういうこと?
 私の頭の上に浮かぶはてなマークが見えたのか、姫はもう一度小さくため息をついてから口を開いた。

 
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