同期の姫は、あなどれない
「なぜかって、わざわざパスケースを届けて恩を売って断りにくいようにした上で、私用の連絡先を手に入れるため。宇多川がオフィスまでわざわざ届けに来たとき『申し訳ないな』って思わなかった?」
それは、姫の言う通り図星だった。
「それは、思ったけど……」
「相手に申し訳ないと思わせることで、次の自分の要求を相手が断わりにくいように誘導できる。あの場合は、早瀬の私用の連絡先を聞いて、ついでに仕事終わりなり休日なりどっか誘うつもりだったのかもな」
「宇多川さんが?なんでそんなこと、」
「早瀬に気があるからだろ。打ち合わせのときも毎回ちらちら早瀬のこと見てたし、終わってからも何かと声掛けてた。俺の趣味、覚えてる?」
人間観察――――
あれは、冗談じゃなかったのか。
唖然としている私をよそに、姫は落ち着き払った様子で続ける。
「うちの会社とS製薬とのプロジェクトがキックオフすれば、俺らみたいなメンバーレベルがコンサルと直接関わる機会はほぼ無い。向こうとしては今日の飲み会までがリミットだったわけ。ことごとく潰してやったけど、まだこんなメール送ってくる度胸があるんだな」
今にして思えば、いろいろと親切すぎたように思える節もある。
でもコンサルの営業さんだし、もともとそういう気がつくタイプの人なんだと思っていた。
「それと今日だけど、宇多川の最寄り駅は中央線じゃなくて東横線沿線だから、渋谷乗り換え。本当なら山手線は俺と同じで外回りに乗るはず。だから帰る方向が同じっていうのも嘘」
「えっ?」
「どこかもう1軒飲みに誘うのも、帰りが遅くなって最寄り駅か家まで送る口実になるから。もし送ってもらったら早瀬はまたこう思う。『わざわざ送ってもらって申し訳ないな』って」
有り得たかもしれない世界線での、私の心の内を読んできたかようにあっさりと言い切る。
姫はきっと見抜いている。私が送られたショートメールの文面を見て『申し訳ない』と思ったことすらも。
「それで、もう終電なくなったんだって言われたら?家に泊めてほしいって言われたら早瀬は断れる?」
「それはっ……たぶん、断るよ」
「本当に?自分を送ってくれたせいで終電を逃したかもしれなくても?」
それは、姫の言う通り図星だった。
「それは、思ったけど……」
「相手に申し訳ないと思わせることで、次の自分の要求を相手が断わりにくいように誘導できる。あの場合は、早瀬の私用の連絡先を聞いて、ついでに仕事終わりなり休日なりどっか誘うつもりだったのかもな」
「宇多川さんが?なんでそんなこと、」
「早瀬に気があるからだろ。打ち合わせのときも毎回ちらちら早瀬のこと見てたし、終わってからも何かと声掛けてた。俺の趣味、覚えてる?」
人間観察――――
あれは、冗談じゃなかったのか。
唖然としている私をよそに、姫は落ち着き払った様子で続ける。
「うちの会社とS製薬とのプロジェクトがキックオフすれば、俺らみたいなメンバーレベルがコンサルと直接関わる機会はほぼ無い。向こうとしては今日の飲み会までがリミットだったわけ。ことごとく潰してやったけど、まだこんなメール送ってくる度胸があるんだな」
今にして思えば、いろいろと親切すぎたように思える節もある。
でもコンサルの営業さんだし、もともとそういう気がつくタイプの人なんだと思っていた。
「それと今日だけど、宇多川の最寄り駅は中央線じゃなくて東横線沿線だから、渋谷乗り換え。本当なら山手線は俺と同じで外回りに乗るはず。だから帰る方向が同じっていうのも嘘」
「えっ?」
「どこかもう1軒飲みに誘うのも、帰りが遅くなって最寄り駅か家まで送る口実になるから。もし送ってもらったら早瀬はまたこう思う。『わざわざ送ってもらって申し訳ないな』って」
有り得たかもしれない世界線での、私の心の内を読んできたかようにあっさりと言い切る。
姫はきっと見抜いている。私が送られたショートメールの文面を見て『申し訳ない』と思ったことすらも。
「それで、もう終電なくなったんだって言われたら?家に泊めてほしいって言われたら早瀬は断れる?」
「それはっ……たぶん、断るよ」
「本当に?自分を送ってくれたせいで終電を逃したかもしれなくても?」