同期の姫は、あなどれない
 ふと、頬に触れるシーツの感触が普段と違うように感じて目が覚めた。

 何だか久しぶりに、とてもよく眠れた感覚がある。
 実家に帰ったときに、起きる時間もごはんの準備も気にせずぐっすり眠れた日の朝のような、そんな清々しさ。

 薄目を開けた焦点の定まらない視界の向こうに、人影が見える。あそこはキッチンだろうか。
 かすかなコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。実家の朝は和食派で、お味噌汁の匂いが漂ってくることはあっても、コーヒーの香りで起きたことはない。

 ゆっくりと体を上に向けると、見慣れない天井とブルーグレーのカーテンの隙間から、明るくて白い朝の光が差し込んでいる。

 (……ここ、どこ?)

 驚いて飛び起きると、ガンッと頭に強い衝撃が走った。

 「………っ、!」

 後頭部の鋭い痛みに言葉が出ない。どうやらベッドのヘッドボードにぶつけたらしい。自分の鈍くささが嫌になるけれど、おかげで寝ぼけていた頭はすっかり覚醒した。

 「大丈夫?なんかすごい音したけど」

 少し驚いた様子で現れた姫の姿に、だんだんと昨日のことがクリアになってきた。
 とにかく順を追って昨日のことを思い出してみる。飲み会の後、姫の部屋に来て、ラーメンを作って食べて、いろいろ話していたところまでは覚えている。それから――――?

 「頭打った?どの辺?」

 うずくまっている私の頭に、姫の手が触れる。
 どちらかというと細身な姫の意外な手の大きさを感じて、気恥ずかしさで顔が上げられない。

 「私は大丈夫。ごめん、壊してないよね?」

 「そんなことより自分の心配しろ。見たところケガはしてなさそうだけど」

 私の後頭部の方こそどうでもいい。
 それよりも、今のこの状況を確認しなくては。
 まず自分の服装を確認する。うん、昨日の服を着たままだ。

 
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