同期の姫は、あなどれない
 「勝手にコーヒー淹れたけどいい?砂糖入れるならそこにあるから使って」

 「ありがとう。ごめん、本当に何から何まで…」

 「別に、元はといえば俺が強引に呼んだんだし。よく寝て昨日より顔色良くなってる気がするし、よかった」

 姫はそう言ってまた笑う。
 昨夜に比べると、姫から漂ってくる雰囲気が何割か増しで柔らかい。
 朝特有の穏やかな空気がそうさせるのか、私の目に何かのフィルターが掛かっているのか、思いがけず新たな一面を知ることになった。朝の姫は、心臓に悪い。

 目の前のテーブルにはトーストが乗ったお皿が置かれた。

 「朝ごはんっていってもこんなのだけど」

 「十分だよ、ありがとう。朝はパン派?」

 「だいたい朝食べるときはこんな感じ。めんどくさくてコーヒーだけって日もある。早瀬は?」

 「ごはんとパン半々かな?前の日の夕飯のごはんが残ってたら、次の日の朝に卵かけごはんとかで食べることが多いかも」

 そんな他愛のない朝ごはん談義をしながら、姫に焼いてもらったトーストを食べる。
 食べ終わったあとは、せめてこれだけはやらせてほしいと、渋る姫を制して皿洗いを願い出た。

 「悪いな」

 洗った食器をタオルで拭き棚に片付けていると、ジャケットを着た姫が顔を出した。

 「ううん、迷惑かけたもん。これくらい全然。あれ、姫も出かけるの?」

 「そう、移行リハのヘルプ」

 「今日休日出勤だったの!?え、時間大丈夫?」

 「時間は平気。もともと昼からの予定だけど、駅まで送るついでに早めに行こうかと」

 「駅までなら私一人で行けるし悪いよ。お昼からでいいんでしょ?」

 「いいよ、早く行く分には問題ないし、早瀬が駅までの道を迷う方が心配」

 私はキッチンが綺麗に片付いたことを確認してから、自分のバッグを手に取った。バッグの中を見て忘れ物がないか確認して、私たちは部屋を後にした。

 
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