同期の姫は、あなどれない
(直しておいてって言われても……)
この見積書は私が関わったことのない取引先で、さすがに他の課の見積書を勝手に修正するというのは躊躇う。もし私までミスをしていたら余計に迷惑が掛かりかねない。四宮課長に相談してみようかと思うけれど、今の時間はちょうど会議で不在だった。
どうしよう、と悩んでいると、ひょいっと後ろから書類が取り上げられた。
「修正やっておく、うちの課の案件だし」
(あ、姫だ……)
私だけでなく周囲の一課の人たちも驚いている。顔を上げた瞬間目が合うと、私の心臓が跳ねた。
気づかれるはずはないと思いつつ、平静を装って姫の手の中の資料に目を移す。
「どこ確認すればいい?この赤字のところ?」
淡々と1枚ずつ資料をめくる様子を見ながら、私は頷く。
「うん、その下のが私が割り出した仮の数字で、ちゃんと計算したつもりだけど確認してもらえると助かる。あと委託メンバーの単価が合ってるかも念のため見てほしいかな。ここ、三課とは取引がない委託先だから」
「何時まで?」
「明日が案件会議だから、14時半までにワークフローを回せたら間に合うと思う」
姫は書類を軽く上げる。了解の合図だ。
自席に戻る姫の後ろ姿を見送ってから、私も仕事の続きに戻った。
その後、三つ目の見積書のチェックとワークフローへの登録まで完了した。いざ自分がすべてをやってみると思ったよりも大変で、この作業をいつも担ってくれている千葉さんには感謝しかない。
時刻は14時過ぎ。あとは姫に頼んだ案件だけだなと考えていると、ちょうどこちらに向かって歩いてくる姫が見えた。
「確認終わった。委託の単価、1件間違ってたから指摘してくれて助かった。あとで宮浦さんにも言っておく」
「ううん、こっちこそ忙しいのにありがとう」
「これ返しておく」
デスクの上に、私が渡した修正入りの資料が置かれた。
その一番上には小さな付箋が付いていて、その文字を見て慌てて顔を上げると、もう姫の姿は見えなかった。
『仕事終わったらメールして 何時でも待ってる』
この見積書は私が関わったことのない取引先で、さすがに他の課の見積書を勝手に修正するというのは躊躇う。もし私までミスをしていたら余計に迷惑が掛かりかねない。四宮課長に相談してみようかと思うけれど、今の時間はちょうど会議で不在だった。
どうしよう、と悩んでいると、ひょいっと後ろから書類が取り上げられた。
「修正やっておく、うちの課の案件だし」
(あ、姫だ……)
私だけでなく周囲の一課の人たちも驚いている。顔を上げた瞬間目が合うと、私の心臓が跳ねた。
気づかれるはずはないと思いつつ、平静を装って姫の手の中の資料に目を移す。
「どこ確認すればいい?この赤字のところ?」
淡々と1枚ずつ資料をめくる様子を見ながら、私は頷く。
「うん、その下のが私が割り出した仮の数字で、ちゃんと計算したつもりだけど確認してもらえると助かる。あと委託メンバーの単価が合ってるかも念のため見てほしいかな。ここ、三課とは取引がない委託先だから」
「何時まで?」
「明日が案件会議だから、14時半までにワークフローを回せたら間に合うと思う」
姫は書類を軽く上げる。了解の合図だ。
自席に戻る姫の後ろ姿を見送ってから、私も仕事の続きに戻った。
その後、三つ目の見積書のチェックとワークフローへの登録まで完了した。いざ自分がすべてをやってみると思ったよりも大変で、この作業をいつも担ってくれている千葉さんには感謝しかない。
時刻は14時過ぎ。あとは姫に頼んだ案件だけだなと考えていると、ちょうどこちらに向かって歩いてくる姫が見えた。
「確認終わった。委託の単価、1件間違ってたから指摘してくれて助かった。あとで宮浦さんにも言っておく」
「ううん、こっちこそ忙しいのにありがとう」
「これ返しておく」
デスクの上に、私が渡した修正入りの資料が置かれた。
その一番上には小さな付箋が付いていて、その文字を見て慌てて顔を上げると、もう姫の姿は見えなかった。
『仕事終わったらメールして 何時でも待ってる』