同期の姫は、あなどれない
 照明の光に当たるとキラキラと反射して、飲むのがもったいないくらい綺麗だ。

 「いただきます」

 一口飲むと、オレンジの爽やかさと弾ける炭酸が舌をくすぐる。

 「美味しい!」
 「そう、よかった」

 口当たりがいいのとすごく好みの味だ。
 私はカクテルの美味しさと、後からじんわりと染み込むアルコールに心地よくなって、私はずっと疑問だったことを尋ねてみた。

 「あのさ、、そもそも姫は、今日何でここに連れてきてくれたの?」

 ここに着いたからずっと不思議だった。
 何かお礼をされるようなこともしてないし、むしろ今日仕事を手伝ってもらった私がお礼をしなきゃいけない立場なのに。

 「ん?あぁ、この前のインスタントラーメンで済ませちまったから、その埋め合わせ?」

 予想していなかった答えに私は目を丸くする。

 「別にそんなのよかったのに…というかそれなら初めにそう言ってくれれば」

 「初めに教えてたら遠慮して来ないだろ」

 さらりと返されて私は答えに詰まる。
 悔しいけれど、私の考えることなんて姫にはお見通しのようだった。

 「こういうところは落ち着かない?」

 姫は頬杖をついて首を傾げる。私は改めて店内を見回してみた。
 広い店内にゆったりと席の間隔があって、他の席から見えないように配慮されている。

 完全に区切られた個室ではなくてもプライベートな空間が確保されていて、落ち着く内装だと思った。正直に感想をいうと、それならよかったと笑う。

 「ここには、よく来てるの?」

 「時々。最近は忙しかったら久しぶりだけど」

 確かに受付の男性は名前を告げなくても通じるほどだったし、さっきのバーテンダーさんとも親しそうだった。
 もしかしたら、彼女とかと来ていたりしてたのかな。

 (何考えてるんだろ、私……)

 チリッとざわつく胸をごまかすようにグラスを傾けると、あまり一気に飲み過ぎるなよ、と嗜められてしまう。
 私はこの前の失態を思い出して顔が赤くなるのをごまかすように、何か話題はないかと探す。

 「姫は、こういうお店に来ても緊張しないの?」

 「しない。この店作ったの実家だから」

 ………え?

 「上総ホールディングス。聞いたことない?俺がどっかの会社の社長の息子って」


 
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