同期の姫は、あなどれない
両親が離婚したのは小5の夏だった。
母はフラワーデザイナーとして働いていて、ホテルやレストラン、イベントなど大きな仕事が抱えていて、いつも忙しくしていた。
父が人脈を駆使して熱心に売り込んだおかげで、むしろ結婚後の方が仕事は順調だったらしい。
「それが自分の力じゃなくて、お父さんや会社の力によるものだと気づいたの。そのとき目が覚めたわ。そうしたら自分に自信が無くなったのよ」
離婚して夫や上総家の威光から離れて、一からやり直したい。
大好きな花を前に笑顔を失くしていく様子を、周囲はスランプに陥っているだけだと思っていたけれど、俺は母の気持ちが少し分かるような気がした。
上総家の御曹司である父と結婚し『上総家の奥様であるなら』いう枕詞付きで仕事の依頼が増えていくたびに、自分の足元が揺らいでいったのだと思う。
俺は母について行き、日本を離れた。
帰国して大学に進学してからは、苗字が変わったことで周囲に素性を知られることはなかったし、それほど他人と深く関わらなくても問題なくて気楽だった。
ふと、俺は初めて早瀬に会ったときのことを思い出す。
始まりは、ほんの気まぐれからだった。
「じゃあ、『姫』でいいよ」
そう呼ばれるのが心地いいと感じるようになったのは、いつからだろう?
母はフラワーデザイナーとして働いていて、ホテルやレストラン、イベントなど大きな仕事が抱えていて、いつも忙しくしていた。
父が人脈を駆使して熱心に売り込んだおかげで、むしろ結婚後の方が仕事は順調だったらしい。
「それが自分の力じゃなくて、お父さんや会社の力によるものだと気づいたの。そのとき目が覚めたわ。そうしたら自分に自信が無くなったのよ」
離婚して夫や上総家の威光から離れて、一からやり直したい。
大好きな花を前に笑顔を失くしていく様子を、周囲はスランプに陥っているだけだと思っていたけれど、俺は母の気持ちが少し分かるような気がした。
上総家の御曹司である父と結婚し『上総家の奥様であるなら』いう枕詞付きで仕事の依頼が増えていくたびに、自分の足元が揺らいでいったのだと思う。
俺は母について行き、日本を離れた。
帰国して大学に進学してからは、苗字が変わったことで周囲に素性を知られることはなかったし、それほど他人と深く関わらなくても問題なくて気楽だった。
ふと、俺は初めて早瀬に会ったときのことを思い出す。
始まりは、ほんの気まぐれからだった。
「じゃあ、『姫』でいいよ」
そう呼ばれるのが心地いいと感じるようになったのは、いつからだろう?