同期の姫は、あなどれない
 「何か邪魔した?」

 「ううん、邪魔っていうよりむしろ助かった?というか…うん」

 「何だそれ。まさか社内で告白でもされた?」

 言いづらそうな態度に、俺は冗談めかしながらも少し声が低くなっていた。
 早瀬は慌てて伏せていた顔を上げると、目を丸くしている。

 「ええ!?違うよ、そうじゃなくて…前からね『仲いいの?』とか『姫元のこと何か知ってる?』とかいろいろ聞かれてたの。さっきもそんな感じで、私は何も知らないし自分で聞けばって言ったんだけど――」

 『あいつ取っつきにくいし飲み会誘っても来ねえし、今度の同期会も欠席だって。まぁ、どこぞの御曹司サマは庶民の俺らとは飲めないのかもしれないけど』

 柳田というのは、頭はそんなによくないけれど明るく積極的でよく目立つ、そういう意味で同期の中心的存在だった。

 ことあるごとに親切を装って回りくどく詮索してくる態度が不快で、極力関わらないようにしていたけれど、さっきの妙な態度はそういうことかと腑に落ちる。

 「それで、聞いてたらだんだんイライラしてきちゃって。そういうこと言う人と誰だって飲みに行きたくないんじゃない?って言ったら黙りこんじゃって」

 そのときにちょうど来たからびっくりしちゃった、と笑うものだから今度は俺が目を丸くする番だった。

 好き勝手言われるのは慣れているし、一つ答えたら次からも答えなきゃならない。それが面倒で敢えて距離を置いてるから、自分の状況は自業自得でもある。

 「…何も、早瀬がそこまで言う必要なかったと思うけど」

 自分から軋轢を生むようなことを言わなくても、そんなことをしたところで彼女には何の恩恵もない。けれど、言わずにはいられない気質なのだろう。

 「だって頭にきたんだもん。私、ああいうの一番嫌だから」

 声や言葉には、性格が表れる。
 気は強くないけれど、自分を持っている。そんな黒目がちな瞳に、どうしようもなく惹かれた。

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