同期の姫は、あなどれない
 「……変わってるな」

 「えっ、それって私のこと!?」

 「この場に他にいる?」

 早瀬は納得のいっていなさそうな表情をしてむくれるものだから、俺は苦笑して少し話題の矛先を変える。

 「そういえば渡したその資料の中に配属希望の紙が入っている。今週末までに提出しろだって」

 「あ、そうなんだ。そっか、研修ももう残り1ヶ月くらいだもんね。姫元くんは配属希望どこにするか決まった?」

 「…その姫元くんっていうのやめない?何か変な感じがする」

 「え?でも何て呼べばいいの?」


 それは、ほんの気まぐれからだった。


 「じゃあ、、『姫』でいいよ」


 早瀬の目が瞬いて、一瞬妙な間が空く。

 何でそんなことを思いついたのか分からない。

 だから「初めは俺の名字が『姫』だと思ってたくらいだし、いいんじゃない?」なんて適当な理由をつけると、自分の勘違いを思い出したのか見る間に赤くなった。

 「もう、それはいい加減忘れてよっ!」

 「忘れない」

 忘れられるわけがない。

 それから言葉を交わすたび、名前を呼ばれるたびに、何かがゆっくりと自分の内側に降り積もっていく。
 少しずつ存在感を増していく何かが次第に息苦しさに変わるまで、その正体を自覚しなかった自分は愚かだと思う。

 そして、気がついたときには、もう戻れないところまできていた。


 
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