同期の姫は、あなどれない
予期せぬ着信
 目は閉じていたけれど、ずっと頭は覚醒していたような気がする。

 今は何時なんだろう。確認したくても、起き上がるのも時計を探すのも億劫で、ただベッドの中で意味もなく寝返りを打つ。ベッドの中から窓の外を見ると、薄っすらと明るくなっている。もう朝がすぐそこまで来ていた。

 あのあとどうやって姫と別れたのかも、自分の家まで帰ってきたのかもよく覚えていない。昨日あったことは、すべて夢だったのではないかとさえ思う。

 (違う、あれは夢じゃない……)

 唇に触れたときの少しひんやりした温度と、離れていくときの姫の苦しそうな顔を覚えている。

 ―――嫌じゃ、なかった。

 そう自覚したら、もうだめだった。
 気まずくなりたくないから、これ以上傷つきたくないからと、昨日一度強引に封じ込めようとした思いは、触れた熱であっさりと氷解してしまった。


 私は、姫が好きなんだ。


 蓋を開けてみたらすごく単純なことで、これはもうどうしようもないことなのだと納得した。


 もぐったブランケットの中で、そっと自分の唇に触れてみる。

 姫にとって、私は何だろう。

 ちょっと親しい友達?信頼できる同僚?
 だったらどうしてキスしたの。何であんなに、苦しそうだったの。

 決して本人に聞けない、答えのない疑問が心の中を霧のように覆って私をがんじがらめにする。
 そして私は、一番大切なことを見失っていた。


 
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