世界はそれを愛と呼ぶ
「……頼むから、夢を見させないで」
「……」
「あの人のように、お前に壊れて欲しくない」
誰のことを言っているのか、それは、ある程度の教養を受けさせてくれた父親のおかげで理解できる。
「……聞いても、良いの?」
内部は何も知らないけど、多くの人に大きな傷を残した、そんな悲しい事件だったことは知っている。
沙耶が尋ねると、相馬はそのまま壁にもたれかかるように座った。なので、沙耶も起き上がり、相馬のそばに座る。
すると手招きされたので、何となくそのまま、相馬の足の間にすっぽりと挟まるように、沙耶は相馬に寄りかかった。
「……」
「……」
互いに何も言わない時間が少しあって。
後ろから抱き締められて、その腕に甘えるように頬を寄せると、彼は後ろで少し笑った。
沙耶の肩に顎を預けるように置いてきて、そのまま、
「落ち着く」と呟いた。かなり小声だったけど、流石に耳元で言われちゃ、聞き逃さないよね。
「私も」
同意を示して、そのまま完全に身を任せてみると。
「……思い返してみれば、こんな風に両親が引っ付いているところは見たことないんだよな」
と、相馬がおもむろに話し出した。
「御園は愛に強く、時に愛に殉じる一族だから、夫婦である以上、“耐えられないはず”なんだけど」
「……耐えられない?」
「ああ。こんな風に触れ合っていないと、頭が焼き切れそうになる。あくまで、番を見つけてしまった場合とかだけど」
「ってことは、相馬、私と出会ってから苦しい時期があったんじゃ」
「まぁ、たまには。でも、沙耶、拒絶しないから」
「……?」
「俺が『おいで』って言ったら、来るじゃん」
「……言われてみれば?」
「普通、付き合ってもない男にそんなこと言われても、行っちゃダメだからな」
「何言ってるの、行くわけないじゃん。相馬だからだし……相馬は安心感があるから。大きな手とか怖いはずだったけど、相馬は私に酷いことはしないでしょう?」
じゃなかったら、今だって反撃できない体勢取らない。
すぐに動ける状態じゃないなんて、本当は不安だから。
でも、相手が相馬だし、沙耶が動くより先に、相馬が何とかしてしまいそうな安心感があるから余計、全力で脱力して甘えてしまう。
「その信頼、裏切らんようにしないと」
「裏切る予定でもあるの?」
「いや……」
何となく言いづらそうな相馬を見ながら、沙耶は首を傾げる。
すると、相馬は咳払いして、
「まぁ、とにかく」
と、話の続きを始めた。
「政略とかは昔あったものの、基本、相手は早くに亡くなるから……番以外と死ぬまで一緒なんてことはないはずなんだよ、御園当主は」
「当主かどうかで、番に関する何かも違うの?」
「ああ。当主に選ばれるには、まず、家に選んでもらい、里に認めてもらい、一族に認めてもらわねばならない……みたいな流れがあるんだ」
「なるほど」
「父さんも流れとはいえ、家に当主に選ばれた人間だった。だから、よく考えなくても、あの人が生きていた時点で何かがおかしいんだ」
「……いくつか聞いていい?」
相馬はまるで情報整理するかのように話をするので、沙耶はとりあえず、1個1個質問することにした。