世界はそれを愛と呼ぶ
「……どんな話でも、私は相馬の味方だよ。嫌ったり、逃げ出したりしないから、大丈夫」
まるで、こちらの不安を覗き見ているような。
「……恐らく、俺は先祖返りみたいなものなんだと思う。昔、長命で、血縁上鬼の方に近く、御園の歴史上当主の中では一番の強さを誇る当主がいたんだが、多分、その……」
「血縁上ってことは、出生の周辺状況も残っているってこと?すごいね。千年近く前でしょ」
「千年くらいなら、保管庫を覗けばいくらでも。……歴史上は消されているけど、当主の手記みたいなものが遺っていて、それは当主権限を持つもの、または、当主が許可したものしか入れない書庫で持ち出し厳禁で管理されているから。その手記によると……」
化け物だった。その男は、本当に。
晩年は孤独に苦しめられ、愛に殉じた、
御園を最盛期へ導いた当主。
「その当主は、母が人と鬼のハーフだった。父は生粋の鬼。母が御園家系で、初代の曾孫に当たる」
「じゃあ、本当に鬼の血の方が強い時代だ」
「ああ。……鬼の血が強く、それでいて、御園の統率力もずば抜けているから、誰もが畏れ慄いたと言われている。そんな彼は里で、『鬼の王』とも呼ばれた」
「里の長ってこと?」
「多分?母が人間に愛想を尽かし、父とは里で生涯を共にしたとあった。その上、彼の補佐もかなり優秀な人で、一説によると、彼の叔父だったと。里の人々は王が絶対の存在の時代、御園当主には『彼以外認めぬ』という強い意志の元、人間側に圧をかけていたと言われていた。勿論、鬼が人間の世界に口出しすることは認められないが、彼はまだ能力のコントロールが上手くいかず、 止められるものはいないと思われた中、彼の補佐は絶対的な力でその鬼達を止めていたとされていて、彼の教育係だったとも書いてあった」
「へぇ……じゃあ、補佐は彼より強かったんだ?」
「最初はね」
─まるで、物語を聞く子供のようだ。
こちらを振り返り、微笑む沙耶は怯える様子などなく、相馬を見てくる。
その真っ直ぐな視線が少し、こそばゆい。
「……俺はね、その当主と同じくらい力が強いみたい。血筋的にはありえないのに、鬼の血が強くて、その当主以来の王だと里には言われて、持ち上げられて、あの人は、母は、俺を嫌っていた」
正確には、怯えていた、だろうか。
仕方が無いことだった、と、諦めをつけたはずだったのに、少し声が震えてしまう。
「それは、何か、強いとわかることがあったの?」
「……生まれた時、石を握っていただけに飽き足らず、角が生えていたそうだよ」
陽向伯父さんが教えてくれた、出生時の話。
自分はどうして母親に嫌われているのか、理解出来なかった頃、相馬を傷付けないように、と、多くの言葉を使って、陽向伯父さんは説明してくれた。
「あと、俺は十月十日、お腹にいなかったそうだ。六ヶ月ほどで出てきたとか、なんとか」
「鬼って早いの?」
「どうだろ?成長は早いのは間違いないが、俺の兄弟は皆、十月十日。角なんて生えてないし、成長だって人間と同じ。俺だけが異質」
「……」
「普通の鬼の子はな、数ヶ月で人間の5歳児くらいまで成長する。流石に人の子だから、そこまでの異変はなかったそうだけど、俺の場合は知能が先に発達したらしい。二歳の頃には既に、英語を話していたとか言われた」
その結果、正しい結末かは分からないが、相馬は今や数ヶ国語は話せるし、書ける。
話すだけならば、数十ヶ国語は可能だし、分からない言語でも、短時間の勉強である程度は把握出来る。
現地で発音さえものにすれば、後は簡単だ。
─そんな、自分でもおかしいと思える知能は人間界ではとても目立ち、御園の人間でなければ、それはそれで面倒くさい人生だったとも思う。
(御園の人間じゃなければ、苦しまなかったのだが)