世界はそれを愛と呼ぶ


「母親からしたら、化け物でしかないよ。腹の中で守った子が、角生やして産まれてくるなんて」

「……でも、お母さんは御園の生まれなんでしょう?」

「うん。でも、受け入れられなかった。というか、多分、俺が生まれるより前、兄さんが産まれる前から、精神に問題があったんだと思う」

「……」

「御園の番制度は優秀でね。番ではない人間と、決められた日以外に交じ合えば、番ではない人間は死に至るんだ。特に絶対に禁忌とされている日に行えば、子を宿させられ、その子が生まれると同時に死に至らしめる」

残酷な制度だ。
御園に産まれてしまったら、死ぬまで自由はない。

「……でも、決められた日なら、大丈夫ってことじゃないの?」

「いや?そこまで甘くない。決められた日でも繰り返す度、相手は弱っていく。子が出来れば、最悪だ。その子が胎の中で育つ過程は、人間が耐えられるものじゃないと言われているからね」

「相手が番だったら、解決する話ってこと?」

「今のところはそう言われているよ。─ああ、でもここまで縛られるのはあくまで、当主だ。当主に選ばれる者だけ。俺の兄弟が番以外と交じ合って、今話したような問題が起きるとは限らない。事例も見たことは無いよ。大抵、当主に番以外の女性をあてがい、起こる問題の方がはるかに多かったわけで……当主に選ばれるということは、人の世界での役割も担う。その地位に、鬼の力も強い稀有な存在が立ったら?」

「……番以外だと、大問題になる?」

「そういうこと。勿論、これは使い方によっては諸刃の剣だろう?だから、番制度の詳細は極秘とされているんだ。その情報の中にひとつ、御園家の者同士だと、番制度という呪いが発生しないことが近年、証明された」

「証明って……」

「そう。沙耶も知ってる通り、俺の両親。俺の母親は、御園家本流の娘であり、父は同じく御園家本流の息子だ。細かく言えば、ふたりはいとこ同士。その元を辿れば、父方の祖父と母方の祖父が異母兄弟でな」

「異母兄弟……」

「さっき話した、禁忌を犯してしまったんだよ。曽祖父がね」

それは戒めのように、今も御園家の歴史に刻まれている。繰り返してはならないと、あくまで身内の中でだけだが、相馬は繰り返したくなどなかった。

「恋を自覚するより先に、当主となった。番を見つけるより先に、妻を宛てがわれた。呪いを理由に避けようにも避けられず、最終的には当主としての呪いがいちばん強くなる、禁忌の日─理性が完全に残っていない夜に、その嫁は夜這いを仕掛け、あろうことか、薬も使っていたらしい。それから十月十日経たずして、鬼子が産まれた。幸い、胎を食い破るほどの力は持っていなかったが、産道より産まれてすぐ、その嫁は息絶えた。

─己の屈辱の証、とも言おうか。曽祖父は我が子の誕生も立ち会わず、妻の最期も見ない振り。そして、縋るように曾祖母に縋った。愛せない我が子をどうすれば良いのか、憎み、呪ってしまいそうな自身を抑制出来ず、それは、番を見つけてしまったゆえの本能の葛藤だ。曾祖母はそんな曽祖父に寄り添い続け、その子を育てた。その子─母方の祖父が物心ついてしばらくした頃、曾祖母は曽祖父と結婚し、俺の父方の祖父が産まれている」

繰り返し、話される話。
繰り返してはならない、悲劇の話。

不可抗力とはいえ、無駄に人を殺めるなかれ─……それが、御園家身内における決まり事。

< 181 / 212 >

この作品をシェア

pagetop