世界はそれを愛と呼ぶ


「母方のお祖父さんは、そのあと……?」

「成人後、すぐに家を出たよ。曽祖父は最後まで、息子を愛せないことを嘆いていた。何も悪くない亜子を抱き締めてあげられれば、と」

「……」

でも、それを本能が許さない。
それを許せば、それは番への裏切り行為となる。

「ここからは、家の外の話だ。普通に就職し、結婚した祖父は番を見つけ、その本能や生家は隠したまま、子をふたり授かった。しかし、若くして夫婦共に事故死している。その後、施設に行くことになったふたりの子を、曽祖父が引き取ったんだ。そこで手を伸ばさなければ、自己満足だったとしても、罪なき我が子を苦しめたことへの贖罪だ。─それが、後に大きな火種となると知らずに」

誰が、悪かったのか。
誰も、悪くなかったのだろうか。

いいや、きっと全員、悪かった。
全員、全てから目を逸らしたから。

「……我が家は、初代夫妻の力を継いで大きくなってきた。女性は治癒の力、男性は鬼の力。あくまで大きな分け方としてだが、何が原因か、女性が生まれにくい傾向があるんだ」

「言われてみれば、相馬はお姉さんだけだ」

「ああ。力の強さが保証される範囲内だと、本当に女性がいなくて、その餌食となったのが母だった」

「……」

「朝から晩まで、酷使されていたと聞いているよ。酷使され始めたのは、12を過ぎたくらい。家に来たばかりの頃、助けてくれていた陽希さんは仕事で海外へ、陽向さんは妻のことで手一杯で、祖父母も引き継いだ当主業で忙しく、曾祖母が亡くなってすぐ、曽祖父は呪いのせいで後を追うように亡くなったから、誰も味方が残らなかった」

その日々は、とても孤独だっただろう。

「母の弟は教育のためと引き離され、母は学校に通うことも許されず、ひとりで戦い続けた。たまに覗きに来る父だけが、母の味方」

「……」

「父が残した手記によれば、母は陽希さんに一目惚れしていたそうだよ。かなりの年の差があったはず……13とかかな。だけど、陽希さんが褒めてくれた舞を頑張るんだ!と言って、踊っていたらしい。その姿が本当に美しくて、父さんは母さんを初恋だったと書いていた」

運命であれば良いのに、と、幼い字で書かれた日記は痛々しく、父さん自身も存在を忘れていることだろう。
今も保管庫に眠るそれは、居なくなった息子の縁を感じるのか、祖父母は大切にしていた。

「番であれば、互いにどう思っていようと、結婚しなければならなくなる。特に、父さんは生まれた時、当主になる石を持って生まれてしまったからね」

幼かった父さんにとって、家族がいない状況の中、母さんが支えだったのだと思う。
一緒に修行して、お菓子食べて、笑いあって。

閉鎖的な空間の中、互いが支えだったからこそ。

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