世界はそれを愛と呼ぶ
☪︎


「─何から話そうかな」

凌さんはそう言いながら、楽しそうに笑う。
一応、色々な人に声を掛けたが、これから話す情報が無闇に拡散することを避けるため、少人数で話すように勧められたのだ。

口が軽い人間がいる云々ではなく、少なければその分、情報共有に時間を要さないというのも、理由のひとつである。

お互い椅子に座って、少し気持ちが落ち着いてきたところで。

「……湊さんは、呼んだ方が良くないですか」

と、相馬がつぶやくと。

「あ」

と、完全に忘れていたと言わんばかりの反応。

凌さんが慌てて呼びに行こうとすると、

「─残念〜☆勝手に来ました」

扉の前で待機し、微笑んでいる湊さん。

「ああ、一応伝えておくけど、盗み聞きをするために来たんじゃないからね?ここ、ちゃんと防音になってるし。俺、忘れられてるな〜と思って」

お茶目に笑う姿は、40をすぎているようには見えない。未だに若々しい彼は『すみません』と謝った凌さんの背中を叩き、

「いや、謝ることじゃない。幸の元気そうな姿、久々に見れて安心したしな〜」

と言いながら、椅子に座った。

「─じゃあ、まず初めに。相馬、もう知っていると思うが、俺は夏川湊という。元の名を、北御門湊」

「はい。存じ上げています」

「じゃあ、北御門の最期も?」

「……はい」

素直に答えていいのか悩んだが、ここで嘘をついても良いことはない。

そして彼が歩んできた半生を思えば、その最期は当然の結末であり、世間的には評価することはできないが、相馬は彼を非難する気にも、裁く気にもならなかった。

「良かった」

真っ向から彼を見つめて答えたことに、そう呟いた湊さん。

「何がです?」

「君が、まだ俺を見てくれるから」

「……言葉を選ぶと、一応、これでも御園当主なので」

「選ばなかったら?」

「当然の結末かと。御園の人間ならば、もっと残酷な最期を用意します。─口にするのは憚られるほど」

御園家は当主が相馬であることで、若すぎることを理由に、時折、喧嘩を売られることがある。
それに関しては時間の無駄なので買わないが、そういう家との付き合いも控えるので、勝手に没落していく。

簡単なことすらも考えることが出来ない奴らが喚く言葉は耳障りでしかなく、社交界で『人殺し』という相馬の通り名が存在しているのも気にしたことはなかったが、湊さんの雰囲気からして、それを知っているのだろう。

どこか楽しそうな雰囲気を醸し出しており、

「湊さん。話の論点がズレるので」

湊さんが口を開こうとした途端、凌さんが止めた。

「─はいはい。凌は真面目だね」

「そういう問題じゃありません」

ピシャリ、と、言い放つ凌さんは、咳払いし。

「北御門の次期当主であった湊さんの失踪を皮切りに、北御門家は没落しました。─表向きは」

「そう。表向きはね。俺はお節介な健斗が助けてくれたから、この街で今も生き延びてる。……正確に言えば、頼んでも死なせて貰えなかったんだけど」

そう言って笑う湊さんの目は笑ってなくて、彼の傷が癒えることは、生きている間はないんだろうなと、実感させられる。

まだ10代の子どもが振るうには、大きすぎた日本刀。
なまくらとなり、今なおもどこかで保管されているであろうそれは、大勢の命を摘み取った。


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