世界はそれを愛と呼ぶ
「……やっと、終わりそうなんだ。相馬」
「……」
「30年近く、かかったけど。やっと。……君が、手を回してくれていたことも知っているよ。ありがとう」
湊さんはそう言いながら、相馬に頭を下げた。
それが巡り巡って、彼の手助けになっていたなら。
「それは良かったです。最後までどうか気を抜かず、心のゆくままに」
相馬はゆったりと、微笑んだ。
「生温い情で終わらせてはいけません。簡単に終わらせてあげることもダメです。いっその事、自ら『死なせてくれ』と言わせる方へ導かなければ」
─人の尊厳を踏み潰し、命を奪った外道に。
自分勝手に振る舞い、その果てを受け入れられぬ者に。
過度な温情など、不要であろう。
「同じ目に遭わせてあげるのも手ですが」
相馬がそこまで言ったところで、
「相馬!一旦、ストップ!」
凌さんから止められてしまった。
そういう経験の話なら、沢山あるのに。
……御園当主として、汚いものなら沢山見てきたし、手を下してきた。それが、頂点に立つ者の役目だから。
「すみません。話が逸れましたね」
「それもそうだけど、30年近く前ってことは、ほとんどが老いぼれなんだよ。後始末が面倒になるから、湊さんに余計なことを吹き込まないで」
「……凌、俺の事なんだと思ってんの?やらないよ」
「いや、少し身を乗り出しているの、気付いてますよ」
「確かに興味はあるが、やろうとは思わんわ。俺も年齢も年齢だし、疲れるし。純粋に、御園当主の事を舐めてたなと感心してただけだ」
「そうですか?」
「ああ。普通に怖ぇよ」
湊さんにそう言われるということは、無意識にも当主モードになっていたということだろうか。
嫌な話だ。街では、普通の青年でいたいのに。
「─もう良いですか?話しますよ」
「うん」
最終的に痺れを切らした凌さんが、口を開く。
最初の話は、常磐家内部の問題だった。
「今現在、俺が主にお仕えしているのは、常磐冬陽(トキワ フユヒ)様です。幸と一緒に関わらせていただいていますが、彼は高校生となった現在も学校に通わせて貰えず、家に閉じこもった生活を続けられています。一緒に過ごされているのは、母親の秋乃(アキノ)様です。側仕えは年老いたお手伝いがひとり、俺と幸、合わせて三人です」
「次期当主の周辺にしては少なくないか?」
「秋乃様の御意向です。冬陽様の行動範囲は狭い為、必要ないと。あれほど望まれてた“唯一の”男の子ですが、当主の関心は薄く、御本人もあまり目立ちたがりではなく、身体も強くありませんし、常に不安げな顔をされております。側近が少なくとも、当主からの隠れた密偵がいる可能性があることを踏まえ、秋乃様は情報管理を徹底されております。その結果、冬陽様は消極的にお育ちになられ、御自身のお気持ちを口にしない為、それを秋乃様は案じておりますが、気が抜ける場所がないことが課題ですね」
湊さんは手帳に軽くメモしながら、考え込む。
「秋乃様が、当主の第三夫人だよな」
「はい」
「第一と第二は事故死か?」
「その通りですが、秋乃様曰く、事故死なんかではないとの事」
その内容すら、ちゃんと伝えられないのだろう。
紙でも、電子でも、徹底的に見られるかもしれない危険性を孕んだ中では難しいだろうから。
─それなら。