世界はそれを愛と呼ぶ
「春の家、華宮家は治癒力が強かったから、御園家から独立させたのか?」
「いえ。そこら辺の因果は、正直分かっていません。千年以上も前の話ですし、能力が強すぎた故に分けたのか、単純に御園家の人数を減らす目的で、つまり、金銭的な面を理由に独立したのか、諸説は様々です」
「……浅宮という者は、相馬をどう思ってるんだ?」
「さあ?ですが、別に悪意は無いと思います。侵入させているのは、統の第二夫人の子で、第二夫人の旧姓を継ぎ、家を蘇らせた初代の子息─浅宮綜(ソウ)ですが、その彼とは深く話したことはないので」
「じゃあ、浅宮綜の父親は浅宮家の当主であるから、統様の後継者候補からは外れると」
「それは分かりません。許可を出すのは最終的に俺ですが、決めるのは彼らに任せるので。言えることとすれば、浅宮家を閉じる道は無いでしょうね。第二夫人の兄が、統の親友であったと聞いています。その彼が唐突に亡くなられ、夫人が天涯孤独となられたので、保護したという経緯も……その事件の原因も、理由が曖昧で。こちらも未解決となっている為、正直、色々と頭が痛い問題はあるんですよね」
彼らは、互いに良い仲を築いている。
互いを慮り、そして、支え合って生きている。
「─それにしても、今話したものだけではなく、多くの未解決事件があるな」
「御園周辺は歴史が長く、権力が強い分、無言の了承、という面が強くありますから。何が起こったとしても、もみ消すことは可能です。同時に、何が起こっても、何をしても、『金持ちの考えることは、庶民には分からない』と、一定の富裕層にすら思われる危険性がある。だからこそ、当主となる者の責任は大きい」
凌の指摘は最もで、相馬は頷いた。
「だからこそ、人格者でなければならない。当主となるものは、直系として生まれたものは。誰かの上に立っているという自覚は忘れず、驕ることは言語道断。歴史が長く、関係者が多い分、多くの闇を孕んでいる面では、御園家も四季の家と変わらない。だが、四季の家における問題は、それを制御する力を当主が持っていなければならないのに、持っていないこと。─この話し合いで、常磐家内部は把握した。では、西大路は?天ヶ瀬は?それを全て明るみに出す時、犠牲が出ていないか?」
考えることが、やることが多すぎる。
でも、それに気づくことができたのは、この街へ来たからだ。
この街へ来たから、時間が出来た。
多くの仕事に埋もれていた問題が、大切な番の、運命の、沙耶の反応ひとつで疑問となった。
芋蔓式に、隠されていた北御門の最期を知ることが出来、犠牲者と話す機会も得た。
最初は面倒くさいと感じていた引越しも、今や良い経験として、相馬の中に入ってきている。
正直、相馬が生きている間は、大きな家を完全にクリアな状態にすることは、政治と同じで難しいだろう。
何故なら、そこにいるのは人だから。
悪人も、善人の仮面をつけていれば、善人にしか見えないように、隠そうと思えば、隠せるものは多くある。
「最近、きな臭さを感じていた四季の家に向き合おうと思った理由は、この街で出来ること、沙耶の反応、この街で生活している同級生の出生……様々なことが積み重なって、引っ掛かりを覚えるようになったから」
本家にいれば、どうやっても会議が入る。
裁かなければならない資料が、決算が、雑音が無くならず、四季の家の管理にまで、手も頭も目も回せない。
「─凌さん」
「ん?」
「秋乃さんとは親しい方ですか?」
「まあ……親しくさせていただいている方かと。穏やかな方なので」
「第一夫人や第二夫人の不審死にも、詳しい御様子ですか」
「ある程度は?」
「……」
今知りたいことは、多くある。
何かが引っかかって、上手く描けないけれど。
あといくつかの情報が分かれば、全てが繋がる。
「……どうして、第一夫人達は消されてしまったのか。第一夫人、第二夫人の子に問題があった?双子で片方だけを消した意味、子孫、孫……不都合?子に関して、いや、常磐の孫は……第三夫人の子は、まだ未成年……秋、冬……」
軽くしか読んでいないので、家系図が頭に浮かばない。
「……すみません。一旦、ここで解散していいですか」
「なにか気になることが?」
「というより、情報があまりにも足りなさ過ぎる。沙耶の件もありますし……ああ、湊さん、お願いがあるのですが」
「?」
相馬は彼に、例の気味の悪い手紙を渡し、話はある程度聞いているだろうが、簡潔に説明した。
それを聞いていた凌さんも横で内容の酷さに顔色を変えており、相馬は微笑んで、彼に、頼み事をする。
「その手紙、消印がないので」
中身を読む限り、知能があまり高くないように思う。
普通、誰かしらは気付きそうなミスだが。
(単純に、使い走りか。切り捨てられる存在か。そうであったとしても─……)
独断の、手紙だったら面白い。
組織の中で、誰かひとりが沙耶に手紙を。
─ああ、そうだ。
「湊さん、あと、沙耶が幼い頃に行方不明になった件についての情報も、わかる範囲で洗い出し、教えて下さると助かります」
「当時のでいいなら、後で」
「ええ。追加があるならば、それも」
同時進行で、どこまでいけるだろうか。
わからないけれど、使えるものは全て使おう。
謝罪をし、感謝をし、相馬は先に部屋から出た。