世界はそれを愛と呼ぶ


「でも、そんな所に放置したの、大罪でしょ」

「湊さん、赤子はひとりで生きていけないんですよ」

適当に笑って誤魔化そうとしたのに、困った。

「本殿の中で自由だったとはいえ、女性のみしか入れない別殿で、幸が生きてこられたのは、貴方が手を回していたからでしょう?」

「……ちょっと、秘密の抜け道を知っていただけだよ。あと、あそこは互いに興味があるように思えて、ないから。俺の母親が監禁して殺してしまえ、と言ったから」

だから、守り抜いただけの話。
屋敷の中で亡くなった赤子を最低だけど利用して、幸が生きているのかどうか分からなくさせて、どうせ、薬物とかでおかしくなっているのが殆どで、母親もたまに思い出してヒステリーを起こす程度だったから、汐とまとめて面倒を見ただけで。

「奇跡だよね。子供が、新生児ふたりをさ」

今考えても、何故、事故で両親を亡くした幸が、北御門なんて地獄の巣窟に送られてきたのか。
間違いなく、あの両親が何かをしたせいだろうが、年齢を重ねるにつれ、幸も空気を読むようになって、2歳にも満たない年で、全く泣かない子に育った時、本当に苦しくて仕方がなかった。

守られ、愛され、自由に生きていくべき子が、大人のエゴで閉じ込められ、殴られて、苦しむなんて、と。

「色んな奇跡が重なって、幸が君と出会って、幸せになったよって言ってくれた夜、俺、熱出したからね」

綺麗だった、ウエディングドレス姿を思い出す。

実くんが、幸の感情を表に出す特訓の為に連れ出した先、田舎の木しかない、コンビニもないそんな土地で、凌は幸の心をすくい上げてくれた。

「勿論、全てが丸く収まったわけじゃないよ。だって、北御門が崩壊して、十年以上、苦しんだ子どもがいたことも事実だ。神様だなんだと崇めて、心を殺させて、凌にもかなり迷惑をかけたけど」

「迷惑なんかではないですよ。俺も鳳月の人間として生まれた以上、避けられる問題でも無かったですし。霞兄さんは俺達を守るため、上手く考えていたみたいですけど……でも、兄さんひとりに背負わせる結果にならなかったので、俺としては特に問題ないです」

「おまえ、本当に良い子だね〜にしても、上手く御園に春の問題が上がっていなかったことを考えると、やっぱり、御園を取り巻く家も悪質か」

過去に浸るのはそろそろ、真面目に話をしなければならないと思い、湊が切り出すと、凌は頷いた。

「聞くところによると、御園家の初代が『御前家』出身らしく、その権威を笠に、傲慢に振舞っているそうです。正直、血縁的には途中で断絶している家が騒いでいるだけであり、御園家の面々にとっては大した脅威ではないそうですが……」

「四季の家との関わりでも?」

「あるでしょうね。その件も含めて、北御門の一件の際の、御園の動きを知りたいと思っているんですが」

「その時期で言うと、御園家もかなりゴタゴタしていた時期だろ?なんか事業関連で」

「そうですね。でも、すぐに収束しています。相馬に聞けば、すぐに分かるでしょう」

「だな。じゃあ、それは後で聞いておくとして……で、この手紙だが。中身はある程度、健斗に聞いているけど、物的証拠だから燃やしたりする訳にもいかんし」

「指紋などは」

「把握出来るかどうか……多分、これとか何年も前だから。沙耶も考えつかないだろうし、指紋採取は難しいかもしれん。ただ、最近のものであればあるいは……否、ひとまず、これをどこの誰が投函しているか、か」

手紙に消印がつかないケースは、稀にある。
機械の不具合だったり、単純な職員のミスだったり。
でもそれが、十何通も続くのは、明らかにおかしい。

「人の特定、すぐわかります?」

「変装とかしていたら、話は別だけど。ここ最近の情報、これから洗おうと思っていたから……結と話して、すぐに確認するよ」

「街の警備に関しても見返す必要がありますよね」

「それなんだよな。下手にやりすぎても、目立つだけだろ?とりあえず、沙耶達には普通に楽しく学校生活を送って欲しいが……」

「もう既に、相馬は難しい範囲に踏み込んでいる気もするけど……」

だからといって、相馬に丸投げするのは違うだろう。
何より、彼がここに来ている時点でかなり目立つ存在になっていることは、間違いないのだから。

相手方が、相馬の動きで何かを察していたら。

「……陽向さんに連絡するわ。健斗に頼んで」

「それがいいかもしれません」

陽向さんだけではなく、数名、こちらに送ってもらう。
そこで大人が出来る動きをすれば、ある程度は。

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