世界はそれを愛と呼ぶ
☪︎


「─やっと見つけた」

御園総一郎は黒い髪を風に委ね、踊らせながら、潮風の強い中、海を眺めていた男に声をかけた。

優しげな風貌をした男は振り返ると、まるで来るのが分かっていたと言わんばかりに、悠然と。

「平気で嘘をつきなさるな。私のことなど、すぐに見つけ出せたでしょうに。─……ああ、大人になるにつれ、雰囲気が春馬様に似てきました」

「そう?」

「ええ。……それで、何用でしょう?私はもう家を離れた身で、春馬様共々、外で自由にやっております」

「だろうね」

「ならば」

「用があるとすれば、父さんに、だ。いい加減に逃げずに、御園家に帰ってきてもらわないと」

「─何を仰います。役目は果たされたでしょう。もう十二分に頑張られ、当主として、相馬様の活躍も耳にしております。死ぬまでそうやって……」

「そうやって、お前らの尻拭いを、永遠にあの子にさせる気か」

─御園総一郎は、怒っていた。
基本、穏やかで怒ることがない総一郎は、相馬の18年間の物語を、めちゃくちゃにした周囲の大人を恨んでいた。

「全部が全部、お前たちのせいにするわけじゃない。だが、血剤の実験はどうした」

「…………総一郎様が、成功させられたでしょう?」

「馬鹿言うな。あの実験は初め、朝霧家の血を絶やさぬために始まったものだったはずだ。お前の持つ、朝霧家の血を。生涯独身を貫くと発言した、お前が結婚などに縛られることがないよう、始めた実験だった」

「……」

「なのに、どうして逃げ出した?どうして、僕を止めてくれなかったんだ!」

朝霧家の血液を土台とし、御園家の血などを利用しながら、成分をきちんと確認し、作り出した妙薬。
お試しで目の前の男が作った時、その薬はその生物を“生命力を活性化”させた。

副作用はなく、化け物になる可能性もない。
ただの薬のようで、しかし、確実に血液を利用している面から、表販売などできるはずもなく。
(衛生や負荷の問題で)

─朝霧家の血液は、特別だった。
現在、一応当主である目の前の男と、たった一人の彼の妹以外、朝霧家の者は亡くなってしまったけれど。
代々、御園家に仕えてきた彼ら─目の前の彼もまた、幼い頃から、父・春馬の遊び相手として生活していた。

「……これは、八つ当たりだな。だが、死にかけていた相馬の番は僕のせいで、これまでの番とは違う存在になってしまっている。何も予測が出来なくなって、それは、相馬の番としては欠点で」

「?、何が欠点なのですか?」

「何がって……」

「だって、あの時の血剤には、私の血液のみならず、相馬様の血液も利用されていたでしょう。なら、それを口にした番様が違う存在になるのは当たり前ではありませんか。本来ならば、性交渉で、御園家の契約というものは成立いたします。子を成すタイミングならば、決まった月が輝く日など……全ては事細かに管理されており、それを守り抜き、管理し、御園家の方々をお支えするのが、我々、朝霧家の役目でした」

「……」

「しかし、これまでの御園の婚姻例にもありませんからね。直接、血を分けられるなど……どのような変化が訪れているのか、それは朝霧家の人間として興味があります」─そう続けた彼は、総一郎の近くまで歩いてくると。

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