世界はそれを愛と呼ぶ



「─そもそも、何故、我々の血が持て囃され、ずっと大事にされてきたのか……わかりますか?」

「……」

「分からないと思いますよ。歴史は全部、消されてしまっていますから」

訊ねておきながら、ムカつく相手である。
そんな総一郎の苛立ちを察しているのか、察していないのかは分からない。が、彼は眉根を下げながら。

「我々が大切にされ続けるのは、唯一、四季の家全てにルーツを持つ一族だからです。最も、四季の家だけではなく、御園家とも縁続きの歴史はありますが……この身は貴重であるがゆえ、どこの家も欲しがるんですよ。そんな時、春馬様が誘ってくださった。だから」

「今現在、希雨が死にそうだと言っても?」

総一郎が遮るようにそう言うと、明らかに動揺した。
そんな彼を見ながら、

「京子も、綺羽もだめだった。残り、3ヶ月」

と、総一郎は現状を告げる。

目の前の彼にとって、希雨は世話になった人の娘であると同時に、幼い頃に可愛がっていた相手だ。
だからこそ、無視できないと踏んで出した。

案の定、彼は反応を示し、何か考え始める。

「……それで、私に何を?」

「帰ってこい。父さんと共に」

「……帰ったとして、また縛られるだけでは?」

「だが、朝霧家を継げるのは君だけだろう」

「一応、腹違いの妹はおりますが」

「そうだな。彼女が“足りない”家の男を婿に取り、子を成せば、その子は朝霧を名乗れるな」

─……目の前の男は、自身の両親が亡き後、一人の少女を自分の家族として引き取った。
その少女は父親と愛人の子供であり、愛人の元で育っていたが、不慮の事故で母親を亡くし、施設暮らしをしていた。

正妻であった彼の母が許さず、引き取れなかった娘。
その娘を引き取り、“資格が無いにも関わらず”、目の前の男は妹に“朝霧姓”を与えた。

よって、朝霧家は二名しかいない。
しかも、正統な血を持つのは、目の前の男だけ。

「……ひどいことを仰る」

「事実を述べているだけだ」

総一郎の悪びれもしない態度に、彼は深いため息をついた。そして。

「母も、周囲の大人も、血が、血が、と……この身に流れる血がどのようなものであれ、私は興味がないのに」

「……」

それでも、彼は貴重な存在なのだ。
四季の家、春夏秋冬全ての家の血を引き、御園家の血も入っている、純血種。

家系図によれば、彼の曾祖父母は異母兄弟だったという。互いの存在も知らずに育ち、政略結婚をした。

彼らは父を同じくする一方、母親の違いから、春の家の血を引く夫と冬の血を引く妻という関係であった。

同じくとした父親は、御園から嫁いだ娘が産んだ子供であったがゆえ、異母兄弟夫婦は春と御園の血を、冬と御園の血を引く夫婦となっていた。

そのような夫婦から産まれた、目の前の男にとっては祖父の、彼らの息子は春と冬と御園の血を引いていた。
そんな祖父も、夏の娘と政略結婚。

そして、また産まれた息子が秋の家から妻を貰い、目の前の男は生まれてきた。

結果として、春夏秋冬全ての家の血を持つ彼はとても大切に育てられた。血を大切にする一族のプライドのようなもので、昔は自由な時間が少なかったと聞いている。

腹違いの妹はだからこそ、彼の母に嫌われていた。
夫婦仲が良かった訳でもなく、相思相愛でもなく、夫婦仲など冷めきっていたが、それでも、正妻であった人が反対していたのは、正妻は由緒正しい秋の娘として育てられ、朝霧の血を完璧にするために、犠牲になった人だったから。

当然の話だが、一般人を孕ませた彼の父親は本当に無責任であり、正妻はそれを許さなかった。

そんな家庭環境ゆえ、目の前の男は幼い頃から達観しており、ドジだった春馬はよく世話になっていたと、古株の使用人が話していた。


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