世界はそれを愛と呼ぶ
☪︎


─また、父が忙しくなったらしい。

「あ、美味しい」

相馬が作ってくれたリゾットを食べながら、陽だまりの差し込む大きな窓から、沙耶は晴れ渡った外の景色を眺める。

「それは、良かった」

飲み物を持ってきてくれた相馬は、沙耶の正面に座ると、肘をついて、にこにことこちらを見る。
それが擽ったくて、「なに?」と聞くと、彼は微笑みながら、「可愛いなと思って」なんて。

「……んん、嬉しいけど、恥ずかしいから」

「そう?」

「ぅん……」

熱くなった顔を手で仰ぎながら、息をつく。
相馬は真っ直ぐに言葉を伝えてくれるから、心臓が何個あっても足りない気がしてくる。

(ご飯を食べているだけで可愛いなんて……)

どういう反応をしていいのか分からないくらい、本当に小さなことでもめちゃくちゃ褒めてくれる相馬。
自己嫌悪に囚われる私に「でも、ちゃんと呼吸してるじゃん」って言い出し、めちゃくちゃ褒められた時は思わず面食らって、笑ってしまった。

「─あ、柚香から連絡来てる」

こちらの心情などお構い無しに、常に本心だと笑う彼は

「本当?」

そう言って、スマホの画面を見せてくれる。
柚香からのメッセージは、沙耶への心配で溢れていて。

「……発作起こして、怖がらせたと思ったのに」

それでも、あの子は友達でいてくれるのだ。
それが嬉しくて、また、リゾットを口に運ぶ。

「柚香は、沙耶が大好きだから。もう少し気持ちが落ち着いたら、学校行こうな」

頭を撫でられながら、沙耶は頷いた。
発作を起こして1週間。相馬も付き合ってくれて休み続けているが、そろそろ登校したい。

(にしても、まさか熱出すなんてな……)

己の貧弱さに泣きたくなるが、最近、まともに寝たり食べ対しているおかげか、自分で感じる元気度が増した気がしている。

沙耶が寝込んでいる間も、相馬はご飯を作ったり、掃除、洗濯、当主としての膨大な仕事……と、何もかもを手際よくこなしており、この人は本当に18歳なのだろうか、なんて、少し疑ったり。

「あとで、少しお散歩行こうかな」

「そうだな。行こう」

「……ひとりでも」

「ダメに決まってるだろ」

額を軽く叩かれ、沙耶はそこを自らの手で押さえる。
痛くは無いが、気分的になんとなく。

「やっぱりダメ?」

「街中でも油断ならないから、ダメ」

邪魔したくないから、なんていう気持ちからの言葉だったが、それを告げると、相馬は余計に過保護になりそうなので、沙耶は「わかった」と、大人しく言うことを聞く道を選ぶ。

(相馬の足枷にはなりたくないんだけどなぁ……)

「沙耶」

「ん?」

─顔をあげると、相馬の顔が間近に。
微かに触れた唇に、沙耶が目を丸くすると。

「……また、変なこと考えてるだろ」

こちらの心情をお見通しと言わんばかりに笑う相馬。

「…………わかるんだ?」

「わかるよ。迷惑とかじゃないから、変なことを考えないで。死ぬまで、そばにいて」

両頬を包み込まれ、耳を彼の親指が触れる。

「……うん」

そばにいることを許されている。
それは、どれほど幸福なことだろう。

正直、死ぬまで、なんて。すぐ訪れるものだと思っていたのに、相馬といると不思議。
気が遠くなるほど、遠い未来な気がしてくる。

< 231 / 236 >

この作品をシェア

pagetop