世界はそれを愛と呼ぶ
「─私、多分、相馬に会うために、相馬と生きていくために、産まれてきたの」
─お母さんは長年の暴力の末、子どもを授かりにくい身体になってしまっていた。
お父さんもお母さんが全てで、子どもは二の次で、ふたりで生きていく道を考えていたと、お母さんの昔の日記を勝手に盗み見たことがある。
強請れば、ふたりは自分達の話をしてくれた。
お互いのどこに惹かれたのか、とか、でも、事件が起こってから、両親はそんな話に触れることすらなくなって、それでも、盗み見た記憶は消えてくれなくて。
お母さんは、私を産む時に酷く難産だった。
死にかけた。だから、お父さんはお母さんに付きっきりになって、仕事を放り出して、それを代わりに務めた勇真兄のお父さんが死んでしまって。
生まれた瞬間からそんな人生だったから、朝陽が死んで、自分の罪深さを感じる度、『生まれて来なければよかった。奇跡が重なって産まれたならば、そんな奇跡は起こらなければ良かった』と、何度も繰り返し思って、思っては泣いて、吐いては、繰り返し囚われて。
愛される度、何かを無くしていった。
大切にされる度、胸が苦しくなった。
私が無茶をする度、両親が傷ついた顔をした。
そんな顔をさせる自分の存在が許せなかった。
両親から大切なものを奪った私を、そんなふうに心配しないで欲しかった。許さないで欲しかった。
両親の気持ちが、全く理解できなかった。
─でも、でもね。
(今なら……今なら、二人の気持ちが分かる)
大切な存在が、自ら傷ついていくことを見ておくことしか出来ない無力感。
誰かを愛するということはどういうことで、どんな風に感じて、相手にどうあって欲しいと願うのか。
「死ぬまで、一緒にいるんでしょう?」
無理をしないで。生きていて。幸せになって。
その道を、どうか諦めないで。
綺麗事は嫌いだけど、これは綺麗事でいい。
「愛しているの。……ひとりにしないで」
縋り付くように、彼の服を掴んだ。
呼吸が耳元で聞こえて、胸は苦しいままで。
熱は下がったのに、体調は良くなったはずなのに、くらくらして、苦しくて仕方がなくて。
「契約、しよう。相馬」
陽向さんに聞いた、ふたつの契約。
御園家の、本契約。
刻印じゃない、これからもずっと一緒にいる約束。
「一緒に死んでよ」
私が死ねば、相馬も死んでしまう。それが本契約。
運命に定められた、番同士じゃないと結べないもの。
「私があなたを連れていく。死なせてあげる」
笑いたい。笑っていたいのに、涙が出る。
でも、この人に死ぬ方法を考えて欲しくない。
だから、私が殺してあげる約束するの。
「私が連れて行ってあげるから」
そう言って、沙耶は固まったままの相馬に触れるだけのキスをした。