取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「高校のときから狙っていた。こんな執念深い男、嫌だろ」
 彼は返事を待たずに背を向けて歩き出し、優維はただひとり残される。
 激しい雨は止むことなくしぶきを上げて降り続いていた。



 翌日、会社を出た優維は重たい体をひきずって自宅へと向かう。
 帰りたくない日が来るとは思ってもみなかった。
 家は安全地帯。必ず安逸がある場所であり、家族と暮らす幸せな場所。

 母を亡くしてからは父と協力して、やはり幸せと安全を保ってきたと思う。
 まさかこんな形で……自分が結婚したせいで壊れる日が来るなんて。

 彼はもう甘いキスをくれない。それどころか極力会わないようにしているようで、朝は食事もとらずに神社に行っていた。
 作り置きした昼ご飯は食べてくれただろうか。夕ご飯、作ったら食べてくれるだろうか。
 不安になりながら帰って台所に行くと、彼が食事を作ってくれていた。

「ごめん、作らせちゃって」
「いいよ、これくらい」
 直彦を呼び、三人で気まずい食事をとったあと、優維が片付けをした。

 その後、優維は千景とともに社務所に行き、照明とクーラーをつけてパソコンを立ち上げる。
 経理のデータはこれ、氏子の名簿はこれ、と次々と教えてもらい、SNSや神社で使っているメールのパスワードも教えてもらった。

「保護猫の譲渡会はもうやめよう。君の負担になる」
「出来る限り続けたい。あなたが繋げてくれたご縁だもの」
 言うと、千景の目に複雑な色が浮かんだ。
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