取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「だったら一生気にしてくれ。俺を忘れないでくれ」
 黒い瞳に見つめられ、優維は悟った。

 彼もまた葛藤しているのだ。そうして、この神社のために——優維のために身を退こうとしてくれている。
 総代たちに反対されてもとどまるのは優維にまで非難が及ぶだろうから。身の潔白を証明するよりも優維を――優維と、優維が大切にしている神社を優先してくれた。

 なんという優しさだろう。どれだけ深く愛してくれているのだろう。
 自然と目が潤む。
 目に浮かんだそれは耐えきれないようにつうっと頬を伝った。

「忘れない。絶対に」
 答えた直後、彼の唇が乱暴に彼女の唇を奪う。
 優維は彼の背に手を回し、その口づけに応える。
 甘いキスではなかった。ただ熱くて、もどかしくて、胸の痛みをともなう雫がキスを辛くしていく。
 やがて唇を離した彼は言った。

「できることなら」
 彼は言葉を切って優維を見つめる。
「できることなら、俺を信じてほしい。誰に疑われてもいい、君にだけは信じていてもらいたい」
 カタリ、と彼女の中の天秤が傾いた。この天秤はきっともう二度と動くことはない。

「信じる。ずっと信じるから……だから」
 その先を封じるように、彼はまたキスをした。

 今度は先程よりも長く、名残を惜しむようなキスだった。
 別れを予感させるそのキスをやめられなくて、彼が離れようとするたびにしがみつく。彼はそのたびに応えてくれて、優しく慈しむように愛を伝えてくれた。
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