取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 あきらめたように離れた優維に、彼は言う。
「君が信じてくれるなら、俺はそれだけでいい」
 彼は背を向け、震える声で続ける。

「神社の見回りをしてから帰る。君は先に帰って。気を付けろよ」
「わかった」
 返事を聞いた彼はまっすぐ扉に向かい、出て行く。

 残された優維は、よろよろと椅子に座る。
 彼はひとりで泣くのだろうか。誰からも信じてもらえず、犯罪者とそしられて出て行くことを。
 そうして、自分と別れることを、泣いてくれるだろうか。

 一度は優維を突き放したのに、信じてほしいとも言う。
 どちらが彼の本心なのだろう。
 ……たぶん、今日が。さきほどのあれこそが。

 優維は自分を抱きしめる。
 信じることが無実の証明になるなら、いくらでも信じるのに。
 ぶーんと音を立てるクーラーの音が満ちて、優維のため息が重なった。



 自室に戻った優維は、なにをする気にもなれなくてテレビをつける。が、内容はまったく頭に入って来ない。
「お母さん、どうしたらいいんだろう」
 棚に飾ってある写真立てを手につぶやく。切り取られた母の笑顔は変わることなく、返事はない。

「優維さん、ちょっといいか」
 廊下から千景の声がかけられた。
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