取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「窮鼠猫を噛む……いや、猫にもなれば虎にもなる、と言うべきか。見事な反撃だったよ。猫にネットをかける話、あれでなにかをするつもりだとはわかったけど、あんな無茶をするなんて」
「伝わってたんだ、良かった」
 優維は喜びに目を細める。

 聖七は完全に優維を舐めていた。千景の弱点である優維を押さえた油断もあっただろうし、ふたりが連携できるとも思っていなかっただろう。だからこそ反撃が通じたのだ。

 いまや暗かった部屋はすべての照明が灯されて明るく、すべてを白日のもとにさらしている。床も壁も天井も、千景の無実のように真っ白だ。

「えー、すみませんが」
 見つめ合うふたりの耳に、困ったような警官の声が届く。
「あなたがたにも事情をお聞きしたいのですが、よろしいですか」
 優維は慌てて千景から離れ、千景は苦笑して了承した。



 優維と千景はレストランで別々に事情を聞かれた。
 聴取が終わったあとはふたりでタクシーに乗り、病院に寄ってから自宅に向かう。

「ケガ、大丈夫?」
「平気だ」
 口から流れた血は口の中を切っただけで、歯が折れたりなどはしていなかった。受けた暴力も打撲だけで済んでいた。このケガについては診断書を貰ってから被害届を出す予定だった。

「ハワイ……行けなくなってごめんなさい。私のせいで」
「君のせいじゃない」
 彼は優維に向き直る。

「君より大事なものなど、ほかにない」
 優維の目に涙がにじむ。
 千景がその雫をそっとぬぐってくれて、優維は彼の肩に寄り掛かってぬくもりを感じた。
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