取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「じゃあ、あの人が言っていた「父が許してくれた」というのは」
「それに関してのことだろう。だが、そもそもがでっちあげだ。これ以上ありえない噂を流すなら名誉棄損で訴えると内容証明を送ったら、宮司から謝罪の連絡があった。今後はなにもないだろう」
 千景の手が優維の髪を撫で、それからハッとしたように手を引っ込めた。

「すまない、もう離婚だというのに」
「まだ届けは出してないから夫婦だよ」
 優維は千景のスエットの裾を掴み、潤む瞳で彼を見つめる。
 千景は目を見張ったあと、顔を逸らした。

「俺が神社を辞めてハワイに行くと言えば、あいつがしっぽを出しやすくなると思っていた」
 千景は強引に話をそらした。

「思ったより早くあいつが君に手を出したのは計算外だった。見込みが甘くてすまない」
「そういうことがあるんだったら教えて欲しかった」
「すべての証拠がそろってからと思っていた。君の大事な神社のことだから」
 彼の微笑に、優維は切なくなった。

 彼は、もしかしたら優維以上にこの神社のことを考えてくれていたのかもしれない。
「すごいね、千景くんは。あんなに疑われて責められたのに」
「すごくはないよ。心が折れたときもある。だけど君が信じてくれたから」
 熱いまなざしに、優維の胸もまた熱くなる。

「疑いが晴れなかった場合、俺が全部かぶるつもりだった。そのほうが根古間神社の名誉が守られる。それなら俺なんか忘れたほうがいいだろうと思った……だが、忘れられたくなかった」
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