取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「そうよ、勝手に決めないで。草凪くんに迷惑よ」
「私はまったく問題ないけど」
 千景は微笑をたたえて優維を見てから直彦に頭を下げた。

「先程は婚約者と言いましたが、実際には私が婿に入る前提でお付き合いを申し込んだところです。返事は保留でしたが、男を帰らせるために婚約者と言いました。申し訳ございません」
「……だが、娘との結婚に前向きだと思っていいのだね?」

「もちろんです。優維さんと幸せな家庭を築きたいと思っています」
「ふたりとも勝手に話を進めないでよ!」
 優維は慌てて彼を止めた。

「そうだね。結婚の話はまた改めて。しかし二千万については必ず私が払います」
 決然とした声に、直彦は大きく息をつき、それから頭を下げた。
「申し訳ないが、お言葉に甘えさせていただく。必ずお返しする」
「はい」
 千景は微笑を浮かべて頭を下げた。




 夕方が迫る春の五時はまだ明るくて温かな空気に包まれている。
 新たにタクシーを呼んで待つ間、優維は彼に境内を案内したが、猫の額ほどの神社だから、すぐに案内は終わってしまう。

「疲れてないか? 休もう」
 境内の小さなベンチの前で、彼は言う。
「そうね」
 今日はいろいろありすぎた。気持ちは疲れているうえ、振袖の窮屈さで息苦しい。
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