取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 千景は浅葱色の袴で直彦は紫色の袴を着用している。
 彼の神職としての姿を見るのは初めてで新鮮だった。さわやかで高潔に見える。

 優維と千景が畳に正座し、直彦が大幣(おおぬさ)を振って心身を清める修祓(しゅばつ)を行う。大幣とはお祓いに使われる祭具で、大きな木串に紙垂(しで)という白い紙をたくさんつけたものだ。

 その後、直彦が太鼓を鳴らして朝拝の開始を告げる。その内容は神社によって多少異なる。
 畳に正座して三人で二度の礼をする。
 続いて、祝詞の奏上だ。
 いつもなら直彦が行うが、今日は千景が穢れを払う祓詞(はらえことば)を奏上した。

()けまくも(かしこ)伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)……」
 彼の低い声で読み上げられる祝詞はどこか神秘的に耳に響く。仏教のお経と違って抑揚をあまりつけず、平坦に読み上げていく。
 祓詞に続いて大祓詞(おおはらえのことば)を奏上する。

高天(たかま)の原に神留(かむまず)()す」
 千明が奏上し、続く『皇親神漏岐(すめらがむつかむろぎ)……』からは優維も直彦も一緒に唱えた。

 大祓詞は罪や穢れなどを払うために唱えられるものだ。
 今の千景は昨夜の様子などかけらも感じさせず、清く正しい神職にしか見えない。

 心地よい彼の声を聞きながら、優維は内心でため息をついた。
 どうして彼にあんなことを許してしまったのだろう。結婚の事実が免罪符になったのだろうか。

 もしかしたら、千景のように強引に求めてくれる人を望んでいたのかもしれない。そんな自分が恥ずかしい。
 そうして、朝拝の最中なのにそんなことを考える自分がまた恥ずかしかった。
 神様に筒抜けだったらどうしよう。
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