取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「いいんです。元ヤクザの息子なんて世間からは反社と同じですよ。不動産を扱っていると余計にそう見られます。バブル期にヤクザが地上げをしていた印象が強く残る方もいらして。仕方ないんですけどね」
 彼の笑みがどこか寂し気で、優維は胸をしめつけられる。

 生まれは選べない。どれだけ頑張っても父親の過去が影となってつきまとう人生はどれほどつらいことだろう。
 懸命に生きていた優維の父ですら、借金による影にのまれそうになったし、優維も巻き込まれた。千景すらも巻き込んで、幸いにしていい方向に転がった。そんな幸運がこの世の中にどれほどあるだろう。

「父は近づかないようにさせます。私も——来ない方がいいのでしょうね」
 優維はとっさに答えられない。聖七はいい人のようだが、彼の父はやはり怖い。

「日本の神様はキリスト教みたいに、人は平等だって言ってくれるんでしょうか?」
 聖七の皮肉な声はやるせなさが漂う。

「神道には明確な教義がないんですよ。神や祖先に感謝し、今を正しく生きる、おおまかにいうとこのような考え方です」
 千景が冷静に答える。

 神道はさまざまな民間信仰の集合体とされている。神社本庁のサイトに基本的なことは書かれているが、神社によって内容が変わることもある。

「正しく生きる……果たしてどれくらいの人ができているのか」
 聖七は目を細めて千景を見た。
 千景はやわらかな笑みで返す。

「できるできないではなく、そのように努めるのですよ」
「さすが、神に仕える方は違いますね。以前は大藤神社に勤めておられたとか」
「よくご存じで」

「不動産をやっていると神社とは縁がありまして。いろんな話が入ってきます」
 意味ありげに言うと、聖七は紙コップのお茶を一気に飲み干した。
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