取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 優維に遠慮しているのか、言葉ではなんどかそういうことを匂わせられてどきどきさせられるものの、結局はなにもない。
 そのことにがっかりする自分に気がついたときにはびっくりした。
 もうすっかり、彼との『そういうこと』を期待してしまっている。

 愛をささやかれるたび、心はいつも熱を帯びた。
 私も彼を好き。

 自覚するまでに時間はかからなかったが、それをいつどうやって言えばいいのか、タイミングを掴めずにいた。
 ましてやキスより先を望む言葉なんて、なおさら言えるわけがなかった。

 きっかけがあれば。
 そう思うのに、そんな都合のいいきっかけがぽんと現れるわけもない。

 自分から勇気を出さなければ伝わらない。
 そもそも彼は自分を愛してくれているのだ、片想いの告白とはわけがちがう。いつだって安心して言えるはずなのに、恥ずかしくて言えずにいる。

 もういい年した大人なのに。
 きっかけなんて待っていたら駄目だ。
 シャワーを止めて、優維は濡れた髪をかき上げる。

「今夜、ちゃんと好きって言う」
 決心してつぶやき、浴室を出た。

 髪を乾かし、ルームウェアを着て台所に向かうと、千景と直彦はまだ晩酌を続けていた。
 仲が良くて良かった、と優維は思う。義理の仲はうまくいかないことが多いと聞くし、同居ならなおさら気を遣いあうだろうから。
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