取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 神社は千景に任せてばかり、盗難疑惑は聖七を頼ってばかり。
 会社ではきちんと仕事をこなしているつもりだが、実際の自分はこんなにもなにもできない。
 帰宅して自室へ戻ると、足音で気が付いたのか、千景が部屋から顔を覗かせた。

「お帰り」
「ただいま」
「ごはんは」
「食べて来た」
 聖七と会っていたことがバレないだろうか。そんなことを思ってうしろめたくなった。

「巫女舞の発表会の映像、ハワイの神社からイイネが来ていたよ」
「ハワイ!?」
 ハワイにも神社があるのは知っていたが、遠い存在だったから、ただただ驚く。

「あちらとも親睦を図れるといいな」
「そうね」
 千景は順調に根古間神社の知名度を上げ、世界を広げている。

 そんな彼が本当に窃盗を?
 それとも、窃盗を隠すために?
 ——あるいは販路を拡大するために。
 考えて、ぞっとした。こんなに善良なふりをして、そこまでできるのだろうか。

「どうした? 疲れてる?」
「うん、ちょっと」
「最近、残業が多いもんな。体に気を付けて」
「ありがとう」
 言い置いて、優維は部屋へ向かう。

 どうしよう、どうしたらいいの。
 答えはなくて、優維は顔を覆った。
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