「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
 お祭りはすでにずいぶん前に終わっている。それなのにこんなに人がいるのはなぜだろうか。

 その理由は戻って来た南雲先生によって知らされた。

「どうやら電気系統のトラブルで、運休しているらしい。今日はもう復旧は見込めないと言っていた」

「えぇええ、どうしよう」

 これは困った。今日変えるつもりだったから、宿の手配はない。

「今からホテルってとれるでしょうか」

「今日は……無理だろうな」

 もともとこういったイベントの日は、早くから予約が埋まる。だから私は一日前に宿泊すると決めたのを思い出した。

「そう……ですよね」

 ちらっと駅前にある深夜営業のファミレスを見てみたけれど、そこも私と同じように電車に乗れなかったひとたちであふれている。

「駅で待つって言っても、この人だかりじゃむずかしいですよね」

 八方塞がりとはまさにこのことだ。

 茫然とひとであふれかえる駅を見るしかできない。

 落ち着いて……どうにかしなきゃ。

「よければ、うち来る?」

「……え?」

 聞き間違いだろうか。彼の顔をまじまじとみてしまった。

「実家だから部屋も布団もある。別の部屋を用意できるからそんなに警戒しないでほしい」

「いえ、あの、その……違うんです」

 善意の相手に失礼な態度をとってしまった。

「南雲先生が、私になにかするなんてことはありえないってちゃんとわかっていますから」

「ありえないかどうかは、わからないけどな」

「へ?」

 今、なんて言ったの?

 もう一度聞いていいのか、ダメなのか。それすら判断できない私は間抜けな顔をして彼を見る。

 そんな私をお構いなしに、彼はまた私のキャリーケースを手に持って歩き出した。

 そんな彼の後を、なんだか無性にドキドキしながら歩き続けた。




 近所だと彼が言った通り、そこから歩いて十分もしないくらいで一軒家に到着した。

「普段は誰も住んでいないんだが、近くに住んでいる叔母が管理してくれているから安心してほしい」

 彼の言う通り、庭もきちんと管理が行き届いているようだ。

「どうぞ」

 鍵をあけた彼が、ドアを押さえてくれている。

「お、おじゃまします」

 普段人が住んでいないせいか、実家といえど物はすくなく少し寂しく感じた。しかし掃除が綺麗に行き届いていてここが大切にされているのだとわかる。

「普段は職場の近くに住んでいるんだ」
< 10 / 19 >

この作品をシェア

pagetop